Hairy World - 毛むくじゃらな世界 -

日比野 留花

作者によるコメント

世の中を豊かにするという名目のもと、新たなモノがとめどなく生産され、同じだけ捨てられるモノが存在する。私はこの世の全てのモノには生命が宿っていると考え、一瞬で役目を終えすぐに捨てられる現在のモノたちの一生の短さに、モヤモヤしている。一方で、生き物をモチーフとしたぬいぐるみや人形、思い出や愛着が深いモノはどこか捨てづらさを感じる。人々が簡単に捨ててしまうモノに愛情や温もりを感じる要素としての「毛」を生やし、私が考えるモノと生命の在り方について表現する。

担当教員によるコメント

多くの国々が製造、消費、廃棄へと直線的に向かう歩みを止め、循環型社会を目指している。一方コロナ禍で、使い捨てプラスティックの使用が急増した。こうした動きを背景に、日比野さんはモノを簡単に捨てないように思いを込め、モノに命を吹き込むような表現に挑戦した。膨大な量の使用済みラベルを撚り継いで作った糸を、使い捨て容器に縫いこんだ。その行為は単に素材のリサイクルではなく、刺し子やキルトのように思い出や愛着、願いや祈りが込められることと通じる。彼女が夢中で刺した糸・毛は、ざわざわと集まって力強く、無作為に混色され独特の色調を帯び、捨てられ消えるはずのモノが新鮮な情景を作り出していることに驚かされる。そこに日比野さんの等身大のメッセージがある。

教授・川井 由夏