なにか物事を諦めるとき、その心持と諦めた後のこと

高口 聖菜

作者によるコメント

エネルギー革命や炭鉱合理化政策によって閉山が相次いだなかで、祖父母は周りに別れを告げる暇もなく横浜へ移住した。それから60年後の2023年、私は祖父母がかつて住んでいた炭住へと向かった。腰の高さまで生い茂るカモガヤの間にルピナスが群生するその地には、コンクリートでできた煙突や選炭場の一部が残り、まばらに民家が建つ。

作品内で象徴的な家型の黒いクッキーは炭鉱住宅を模している。
炭鉱労働者であった祖父と、季節坑夫の父を持ち炭住街で働く労働者であった祖母の思い出の家。他方で1928年に改正された「鉱夫労役扶助規則」により、坑内労働を禁止された女性炭鉱労働者にとっての家でもある。「炭住クッキー」に触れながら、炭鉱労働者と祖父母のことを考える。

担当教員によるコメント

主に炭鉱内の換気作業に携わる炭鉱労働者であった、作者の祖父へのインタビューを通じて制作されたインスタレーション作品である。女性の炭鉱内での労働が法によって禁じられている問題、炭鉱労働者の家族のために大量に建築され、しかしまったくその痕跡が残っていない炭鉱住宅、軍需生産美術推進隊によって制作された炭鉱夫の像についてなど、作者は制作にあたり、炭鉱にまつわるさまざまな問題を多面的に調査を行った。こうした調査に基づいて制作されたオブジェクトや映像・パフォーマンスの記録などの複数の要素は、炭鉱閉山から月日が流れ、消え去ってしまった様々な出来事や記憶を掘り起こし、現在と過去、男性と女性といった複数の視点を交錯、循環させている。

准教授・谷口 暁彦

  • 作品名
    なにか物事を諦めるとき、その心持と諦めた後のこと
  • 作家名
    高口 聖菜
  • 素材・技法
    プロジェクター、ディスプレイ、石炭、炭住クッキー、木炭、紙、セメント、ラジオ、LEDライト、サウンド、その他
  • サイズ
    サイズ可変
  • ジャンル
    インスタレーション
  • 学科・専攻・コース
  • 担当教員