政石蒙研究——「それでもなお」表象不可能に抗って
福井 雄琉
作者によるコメント
本研究は、ハンセン病を患いながらも創作活動を続けた歌人、政石蒙について、フランスの思想家ジョルジュ・ディディ=ユベルマンのテキストも参照しながら論じるものである。政石の穏やかで隠喩的な自然描写は、むしろ抑圧された状況においてそうせざるを得なかったものであることを主張し、彼が病者として「無かったもの」とされてしまうことを、自らの生活の全てを可視化することにより阻止しようとする、表象不可能への挑戦がここに為されていることを論じていく。
担当教員によるコメント
15歳の頃にハンセン病を発症した政石蒙は、それを隠して従軍、満洲に派遣される。敗戦後、モンゴルで捕虜となった時点で、その事実が発覚し、大草原の直中に、たった一人で隔離される。この二重にして絶対の隔離生活のなか、政石は短歌を詠みはじめる。その短歌には、自らへの境遇への絶望や不満ではなく、自然の美しさが詠まれ続けていた。アウシュビッツで密かに撮影された4枚の写真をめぐって、その悲劇を表象する可能性を奪われた者たちが、それでもなお、イメージに何ものかを託そうとした事実を明らかにしたジョルジュ・ディディ=ユベルマンの『イメージ、それでもなお』を援用しながら、政石の表現の不可能性と可能性を浮き彫りにする、きわめてアクチュアルな批評的実践となっている。
教授・安藤 礼二
- 作品名政石蒙研究——「それでもなお」表象不可能に抗って
- 作家名福井 雄琉
- 学科・専攻・コース
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- 担当教員