album

井上 れみ

作品解説

箪笥の奥で眠っていた服を手に取ると、当時の記憶が鮮明によみがえってくる。それぞれの記憶が詰まった家族の古着を重ね合わせ、ひとつの布として構成した。積み重なる記憶のように、色や素材、シルエットが重なり合い、当時の記憶の断片を想起させる。

作者によるコメント

ところどころぼんやりとしていたり、際立ってみえてくるところがあったり。記憶のように積み重なって影響し合うシルエットや素材により、多様な表情が生まれるよう意識して制作しました。
卒業制作の期間は、私の家族にとって大きな節目が訪れた時期でもあり、それが記憶をテーマにしたこの作品の着想へとつながりました。

担当教員によるコメント

シャツやズボン、スカートのシルエットが一枚の布のレイヤーの中に見え隠れする。ここに創られた一枚の布を目で追う思考の過程の中で、柄やかたちやパーツや素材に対する認識が次々と意識に現れ、入れ替わる。かたちを留めない像たちが一枚の布に封じ込められているかのような作品で、それはあたかも実態のない私たちの記憶や思い出の姿のようでもある。井上は家族たちが昔来ていた服たちを幾重にも重ねて縫い合わせ、切ったりほぐしたり、洗ったりしてこの作品を制作した。時間、愛情、笑い声や泣き顔、怒ったり喜んだりする様子。この布の作品は井上の家族の物語であるが、鑑賞者の私たちの物語もそこに投影しながら同調することのできる平和な喜びが備わっている。

教授・深澤 直人、教授・長崎 綱雄