平面的な物性

日俣 千樹

作品解説

照明で生まれた影を撮影し、改めて用紙に印刷する。平たい紙には、存在しないはずのたわみやシワが感じられる。本来空間や奥行きを通して感じる物性が、平面的な視覚のみによって生まれるのか探った。

作者によるコメント

印刷物によるグラフィックデザインは可搬性や汎用性が発展途上な時代における一時的なもので、いずれは映像に取って代わられる分野なのではないかという疑問から制作しました。
まだ基礎研究の段階なので、これをきっかけに表現を広げていければと思います。

担当教員によるコメント

私たちは、光源から放たれた光によって物の質感や配置などを読み取っている。逆に考えると、光による反射や影のような表象をシミュレートすることにより、質感のないものにも質感を付与することが可能になる。

日俣はグラフィックデザインの可能性を拡張するために、この光による表象を直接デザインすることによって、そもそも図像を定着する「平面」という存在の物質性についての探求を行なってきた。多くのグラフィックデザイナーが、何を定着するかという視覚的な造形に注力している中、そもそもの原理や拠り所となる環境・物質自体を扱うことは、一見すると非常に地味なものである。しかし、美術大学の役割として行う(べきだと私が考えている)表現の基礎研究という視点においては、このような試みを積み重ねることで、平面に情報を定着させるというグラフィックデザインの営み自体を再定義できる可能性がある。

この1年間の答えのない探求は苦しいものであったと思うが、ぜひ今後社会に出てからも、普遍性のある本質的な探求を続けてほしいと思う。

准教授・菅 俊一