漢文字示生物

齋藤 李

作者によるコメント

「民俗学」をテーマにした作品を作りたい、とずっと考えていた。そのため、4年の前期は民俗学について独学で勉強していた。
また動物をモチーフにしたい、とも考えていたため、動物から結びつくものを書き出した時、「動物の名前の漢字は、読み方が難しい」という点に行き着いた。

民俗学とデザインを結びつけることが難しく、途中まで全く違う作品を作っていた。しかし、最終的に「文字の成り立ち」という民俗学らしいテーマを見つけることができ、自分の納得のいく形で卒業制作を作ることができた。遠回りはしてしまったけれど、自分が今まで蓄えていた知識がフル活用され、この1年間自分のやりたいことに向き合えて、とても満足している。

この作品では、シルクスクリーン印刷を用いた。漢字が広く伝わった手段として、印刷物の影響が大きいと思うため、当時の印刷方法に近いシルクスクリーン印刷を選んだ。素材は、表面が「現代の解釈で新しく漢字を読み解く」ため、現代的な化学繊維の素材(ターピークロス)を使用し、裏面は「実際の生物の姿」で特別な意味を持たせたくなかったため、シンプルな紙を選んだ。

また、昔の人がなぜこの漢字をこの生物に当てたのか、あえて答えを書かないことで、見た人に理由を想像してもらう作品にした。

例えばカンガルーを見た時、現代人ならば「子供をお腹の袋に入れている」という特徴を一番に挙げるだろう。しかし、古代人はカンガルーに「長尾驢」という漢字をあてており、「尻尾が長い」ことに重きを置いた。そのような現代人と古代人の意識の違いも比べて見てもらえたら嬉しい。

担当教員によるコメント

もともとキュートな手描きイラストレーションを描いてきた齋藤。最初はトリックアート的なイラストレーション表現を考えていたが突如変更、動物の名前の漢字と実際の動物の形や姿とのギャップの面白さを焦点をあてた。
歴史の中で人間のその動物に対する価値観の変化があったのかもしれないというストーリーをあれこれ想像すると面白い。
テントやIKEAのビニールバッグのような巨大な素材に不思議な想像上の動物のイラストレーションと辞書のようなタイポグラフィーはシルクスクリーン印刷だ。
網点が荒く、ウォーホルの指名手配犯シリーズやモンタージュ写真のような新聞の切り抜きを拡大したようなテイストが力強い。思ってた動物と違うという驚きと喜び。表裏でのレイアウトに辿り着くのは結構な迷いがあった。
映像を使うというやり方もあったが齋藤はプリント、グラフィック表現にこだわった。裏面にはアンサーとして精巧な描写ではないややディフォルメされた動物の味わいのあるカラーのイラストレーション。
鑑賞者が移動して裏をみるというフィジカルさに可能性を求めた。卒展の期間中に鑑賞者をみているとこれは見事に成功していた。体をつかってぐるっと回り込んでアンサーをみる。
デスクトップですぐに結果が手に入るものでないアナログさ。作品の大きさも量も質も見事だったと思う。卒業したら電通のアートディレクターとして百戦錬磨の人々の中にはいることになるがいつものように怒らず、
動揺も緊張も顔に出さず、淡々とした姿勢でいいデザインを探求していってほしい。「すもも」というご両親からいただいた素敵な名前のように、常に周りの空気がかわるようなナチュラルなデザインをやさしく追求していってほしい。卒業制作優秀賞「INTEGRATED AWARD」おめでとう。数年後、どこかでキュートなデザインに出会いはじめることだろう。

教授・佐野 研二郎