欧米遊学は菱田春草に何をもたらしたか

岩田 和花

作者によるコメント

菱田春草がその画業の大半をかけて追求した朦朧体は、西洋絵画の写実性を取り入れ新しい日本画を創出するという理想をもった岡倉天心の指導により生まれた実験的な画風だった。帰国した洋画家を介し間接的に学んでいた春草は、実際に西洋絵画と邂逅し何を思ったのか。当時激しい非難を受けた彼の取り組みは一人の画家の画風の変遷という枠組みを超え、やがて近代日本画に革新をもたらしていく。

担当教員によるコメント

明治中期以降、哲学者の岡倉天心や画家の横山大観とともに「日本画の革新」を先導した菱田春草は、線描から離れて空気の表現に腐心した「朦朧体」の創始を経てリアリズムと装飾性を包含する明晰な作風を形成した。その画業は、戦前から多くの研究者によって顕彰されてきたところだが、晩年に近い時期の欧米外遊が作風にどのような変化をもたらしたかについては、いまだ研究の余地が残されていた。岩田さんは、作品の描写の中に具体的に表れた欧米遊学の影響を、それ以前に取り入れていた西洋画法とは区別する形で的確に指摘する。さらにはその後の春草の日本の伝統への回帰にも遊学の影響があったことに言及し、春草研究に新たな視野を開いた。

教授・小川 敦生