The Distorted Persona

松井 寛太

作者によるコメント

この布のマスクは、ペルソナを表現している。ペルソナとは、他者に対して自分をどう見せるかを意識する中で作られる、社会的な仮面のことだ。仮面をかぶり、自分を誇示することで、他者の評価を得られる。しかし、その仮面が本来の自分とはかけ離れたものであれば、矛盾や違和感は容易に見破られてしまう。たとえ、仮面の歪みを周囲が感じ取ったとしても、人々は自身のペルソナを指摘されることを恐れ、互いに見て見ぬ振りをする。こうして仮面同士の交流が続いていくうちに、両者の本音は沈黙を強いられ、人間関係も歪んだものとなる。

担当教員によるコメント

「人はそれぞれの人格を演じて生きている」という仮説の作品化を試みている。グラフィックで象徴的に表現された人格(あるいは人格上の欠陥)が顔にまとわりつくように被せられる。そのポートレイト写真と、皮肉の効いたショートストーリーがセットになっている。作品全体の構造が複雑で、作者が考えていることがすぐに伝わるわけではなく、もどかしい印象もある。ただ、難題を作品として成立させようとする制作上の格闘は痛切に伝わってくる。スマートではないが、考えることと作ることを繰り返した結果の厚みを感じさせる。この作品はまだ途中だと思う。たとえば10年後には、作者は頭の中で渦巻くことを、もっとうまく、もっと強く、作品にしてみせるのではないか、と期待させられる。

教授・服部 一成