都市型迷彩

飯野 忠郎

作者によるコメント

都内、夜の繁華街で当たり前のように散乱するゴミ。朝どんなに綺麗になろうと次の日の夜にはまたゾンビの如し忽然と増え続ける存在である。そんな過酷な環境で自立し、その環境すら巻き込める作品を作りたいと考えたのがはじまりだった。
この作品は見た目の通り単純でありゴミ袋で全身を覆える服を制作し、それを実際に着て夜の繁華街で座り込み周囲の風景に溶け込むというものだ。撮影は新宿区で行った。
夜の繁華街では当たり前のようにゴミが散乱しており、それが当然の景色として人々に固定概念を植え付けてしまっている。
実際に人通りの多い道で15分ほど座り込むも気づく人はそういなかった。このふざけた服が迷彩服となっているのだ。そのような現実、固定概念を我々は変えなければならない。

担当教員によるコメント

飯野は具象を作らせると異常にうまい。その技術を一旦封印して作ったのがこの《都市型迷彩》で、彼の作品の中では異色である。都市に潜入して行った行為そのものが作品で、われわれはそれを記録として鑑賞するわけだが、カメラの視点は通行人の視線である。しかしわれわれには「ゴミに扮した」飯野があらかじめ明かされており、そこが通行人の視点と異なる。この作品は「通行人が気づかない」ことで成立し、その意味では須田悦弘の野外彫刻と重なる。しかし例えば電車の中での振る舞いやSNSでの振る舞いなど、普段われわれが息を潜めながら行う数々の行為を喚起させ、またゴミから見た都市といった視点が想起されるなど、多角的な視点で解釈することのできる秀作である。

教授・高嶺 格