さぐる
豊田 恭子
作者によるコメント
触覚を用いた彫刻作品鑑賞方法に興味を持ち、4年次はその関心を基に作品制作を行ってきました。「さぐる」は丸太の内側をくり抜くように彫刻し、一つだけあいた穴に手を入れ触りながら全体像を想像していくものです。
私は他人の視線に晒されることが苦手で、人に見られる、勝手に評価される不安を題材に作品構成を練ることが多く、今回のコンセプトもその思考をベースにしました。本作品では、穴から覗くうねりや手を入れるか躊躇う時間、ふれた内側の質感の差異、手にうつる木の匂いなど、鑑賞者自身の感覚によって得たすべての情報を統合する行為を鑑賞としています。
外見からは想像しにくい暗がりに手を突っ込むのは勇気のいる行動ですが、その躊躇は私が他人との関わりで感じている不安であり、さぐられる丸太は私自身にもなりうるのです。
担当教員によるコメント
豊田は4年になってから「触る作品」を作りはじめた。最初に作ったのが妊婦のトルソで、木だと知りつつも知らない女性の腹を撫でる指に言い得ぬ背徳感があった。今回の《さぐる》では、自分の指先がなにに触れるのか、入れてみるまでわからない。自然木に空いた洞(うろ)に手など入れるものか、毒虫に咬まれるかもしれない。「いや、これは作品だ」とこわごわ手を差し入れると、中は複雑な形状をしていて意外と広い。いろんなテクスチャがある。スベスベのところを触っていると、作者と対話しているような気がしていつまでも触ってしまう。ローマの「真実の口」に噛まれなかったときの安堵感、いやそれ以上に親密な、全身で体感しているような独特の通いのある作品である。
教授・高嶺 格
- 作品名さぐる
- 作家名豊田 恭子
- 素材・技法樟
- サイズ1530×640×650mm
- 学科・専攻・コース
- カテゴリー
- 担当教員