ゆり

小川 美咲

作者によるコメント

私は日々様々な絶望そして喪失を繰り返す

きみは、 私が右往左往しているうちに遠くへ行ってしまう
あなたとの子を腹に宿し、 2000年と栄える国を築きたかったし
一本早い電車に乗れたら 隠れた本意をうまく探し出すことが出来たら
私はより良い未来を手にすることができた。いつだって思う
手に入らない 
喪失感も絶望も、痣も、気づいた時にはブルーから黄色くなって消える
私はプールサイドで三角座りしている。はしゃいだ声が聞こえる
全然興味ない 遠く フェンスの向こう側に意識を飛ばしている
異端者の悲しみだけが、いつまでも私をそっと抱きしめてくれた
記憶に横たわり続けたい 目だけでない脳天から足先までつらぬく
押し寄せては消え、混じり合っては失踪する、必死なのに忘れる 捕らえられないのだ

担当教員によるコメント

銅版画における色彩の妙と、腐蝕によるダイナミックな表現が融合し、観る者を圧倒する強い視覚的インパクトを備えた作品である。一方で、力強さだけでなく、画面に繊細に描かれた表現が共存しており、作家独自の世界観が巧みに構築されている。そこには、現代社会への鋭いまなざしとともに、個人的な内面からにじみ出る詩情が静かに漂っている。抑揚のある色彩と描画によって生まれたみずみずしいイメージは、まるで彼女の言葉が視覚化されたかのように感じられる。また、組み合わされたイメージは、多層的な記憶の断片が重なり合うようにも見え、作品に一層の深みと物語性を与えている。確かな銅版画の技術と感性が見事に融合し、鑑賞者の想像力を深く刺激する、極めて完成度の高い優れた作品である。

准教授・大矢 雅章