2024年度卒業制作演劇公演『半神』

作者によるコメント

私は『半神』で“孤独”を描いた。しかしこの作品に携わった8期生総勢41名は誰ひとりとして孤独な者はいなかった。経験、趣味嗜好、興味もまるで違うメンバーが、舞台上では一緒になって踊って、歌って、走って、跳んで、叫んで、暴れる。スタッフとも常にコミュニケーションをとって解釈の齟齬を埋め、日々変化していくお互いの熱を感じながら“孤独”に向かっていく。これは決してひとりでは表現することのできない“孤独”であった。
ラストシーン。ともに同じ時間を過ごした俳優たちがバラバラな方向に歩いていく。しかし視線は全員舞台の中心にある。全員が同じ方向を向いたこの光景を客席で観た時、4年間の集大成、この座組で『半神』を上演する意義を強く感じた。
♪ひとりじゃないって素敵なことね!

脚色/演出・井上 祥多

担当教員によるコメント

卒業公演にふさわしい4年間の集大成となる公演として素晴らしい成果を上げました。
舞台美術の観点からは、野田秀樹さんの奥深い脚本を具現化するために、戯曲をしっかりと読み込み、試行錯誤を重ねて、作品の世界観を具現化しております。そのためには舞台装置製作・小道具製作・舞台監督・照明の各チームがしっかりとサポートをしております、舞台のイメージである能舞台の持つ世界観と「半神」の持つ世界観がクロスオーバーした効果が、観客を見事に作品の世界に取り込んだと言えます。
また通常の劇場ではない空間の特性を生かし、客席を対面に設置、本舞台の床下も俳優導線として活用することによって、演出の幅が広がり、異空間との交差の視覚化にも成功したと言えます。

教授・金井 勇一郎

多摩美術大学での『半神』上演は今回3回目。初回は2011年(@上野毛キャンパスの映像スタジオ)。野田さんが多摩美に教授就任して4年目の夏。演出に抜擢されたのは2年生。美術プランナーと、シュラ、マリアを含む数名の俳優はプロを召喚。在校生スタッフとキャストはオーデイションで選抜。ユニークな座組で迷宮を潜り抜けるように創作した作品は、手応えと好評を得て、翌年には、東京芸術劇場シアターウエストで再演。名作戯曲は古典となり、時代を超えて常にコンテンポラリーな問いを発する。あれから、13年の時を超え、そのことを見事に示した8期生の舞台に、惜しみない大拍手を贈りたい。多摩美は、原石たちが集まる大学なのだ。

教授・加納 豊美

本公演は、名作に正面から挑み、戯曲の持つ物語と詩性を十二分に観客へ届けることに成功しました。対面客席という挑戦により、岬や灯台、海といった情景が見事に表現され、会場全体が一体となる空間設計を実現しました。俳優たちの最後の追い上げは圧巻で、舞台下や客席も作品世界の一部として扱い、印象的なダンスとともに迫力を生み出しました。また、オリジナルで創作された音楽が作品の緊張感を高めたと思います。すべての学生たちが一丸となって安全かつ円滑に作業に取り組む姿に協働の成果を感じました。本公演は卒業公演ならではの輝きを放つ成功作であったと評価します。今後は、学生が独自の表現や活動を見出し、さらなる飛躍を遂げることを期待します。

准教授・柴 幸男

最初、俳優たちは野田戯曲の持つ言葉の力を持て余していました。しかし本番が近づく中で、それを自分のものとして発話し、嘘のない存在になっていきました。
演出を担当した井上祥多さんの手腕も見事でした。現実的に諸問題に対応していく逞しさがありながら、作品の隅々まで丁寧に愛情を注ぎ込み、とても手堅く美しい作品に仕上げました。
例年とは違う劇場(劇場というよりはイベントスペース)での上演でしたが、その空間や設備面ならではの世界を作り上げたスタッフワークも素晴らしいものでした。その場、その時間を否定しない、という演劇の真髄を感じました。
カンパニー全体に、様々な意見に耳を傾けながら物事を進行して行く心配りと忍耐がありました。
8期生らしい、自分達らしい作品をしっかりと作り、観客の心を確かに動かした素晴らしい公演でした。

准教授・糸井 幸之介

今年度の卒業制作演劇は、学科として初めての会場での上演となりましたが、客席と舞台が近く、出演者の魅力がよく伝わってきました。舞台美術のデザインは秀逸で、特に一回だけ灯台が舞台中央へ移動し程なくして元に戻るプランは、本来見えにくい化け物の世界の視覚化に大きく寄与していました。照明に関しては、会場に入ってから今回の対面客席配置に苦労したようです。これまで学内のスタジオではほとんど経験してきませんでしたから。さらにフォグマシンを使えない会場であったことも、表現のうえで悩みを増やしていました。与えられた時間の中で相当苦労したようですが、結果としてはベストの照明デザインを完成させていました。衣裳もファンタジックな世界の構築に大きく寄与していました。

講師・大平 智己


『半神』という作品自体は野田名誉教授の最高傑作の一つとも呼べる戯曲で、これまで数多の団体が上演してきた戯曲でもある。「孤独」というテーマは普遍的であるが、ともするとステレオタイプな演出、退屈な演技に陥ってしまいそうな危うさもある。
だが、そんな心配は見事なまでに裏切られた。俳優だけでなく美術・衣裳・照明・音響(音楽)からも熱量が伝わり、揺さぶられずにはいられなかった。対面の客席に、互いの存在を確認しながらも、決して同じ側を見ることはできない切なさを感じた。
華やかな本番に至るまでに経験した、悔しさ・恥・もどかしさ・不安…全て背負ってしっかり立ち上がった立派な公演だった。立ち上がったら次は踏み出すのみ。
それぞれの未来に大いに期待している。

講師・野上 絹代

作品情報

期間:2024年12月20日(金)〜22日(日) 全4回公演
会場:二子玉川ライズ スタジオ & ホール
上演時間:約120分

原作・脚本:萩尾 望都
脚本:野田 秀樹
脚色・演出:井上 祥多

キャスト

麻里 ひなた/植月 翔梧/海老原 綸/小野田 しえな/鍵山 星乃/小松 優音/斉藤 美結/酒井 深桜/佐藤 康平/澁谷 和佳/西田 伯/西村 聡一郎/西村 優作/久藏 文佳/堀井 綺嶺/本田 莉々彩/松島 勇輝/吉田 美織/吉浜 芽生人

スタッフ

脚色・演出:井上 祥多
演出助手:石井 萌
舞台監督:西内 穂波
美術デザイナー:中野 恵
美術:安藤友香/大曽根 佑紀/梶 スミレ/加藤 優奈/神戸 絵夢/住吉 愛子/中野 恵/東元 ひかり/牧野 莉子
衣裳デザイナー:海老原 綸/野村 芽衣
衣裳:伊丹 優樹/海老原 綸/野村 芽衣/南 奏羽
楽曲制作:永田 理那
音響:石井 萌
照明デザイナー:XU Xuan/前田 遥来
照明:HONG Dahyeon/福﨑 梨咲
ステージング:澁谷 和佳
タンゴ振付:本田 莉々彩
宣伝美術:畔上 陽一(武蔵野美術大学基礎デザイン学科4年)
宣伝映像:YU Jiaqi(情報デザイン学科4年)
写真撮影:麻里 ひなた
制作:植月 翔梧/及川 萌百花/小野田 しえな/鍵山 星乃/酒井 深桜/佐藤 康平/西村 佳子/西村 優作/福﨑 梨咲/本田 莉々彩/松島 勇輝/吉田 美織
広報協力:髙橋 一渓(映像美術ゼミ4年)/野村 唯人(演劇舞踊コース3年)

アドヴァイザー

上演:糸井 幸之介/柴 幸男/野上 絹代/大石 将弘/岡本 陽介/西田 夏奈子
舞台監督:佐藤 恵
舞台美術:金井 勇一郎/阿部 宗徳/岡田 透
衣裳:加納 豊美/石橋 舞/三浦 洋子
音響:鈴木 はじめ
照明:大平 智己/藤巻 聰
宣伝美術:則武 弥
制作:坂本 もも
授業担当助手:青木 哲

主催:多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科
協力:二子玉川ライズ/NODA・MAP /小学館

演劇舞踊デザイン学科の卒業制作について

演劇舞踊デザイン学科は、感性豊かな身体の表現者、創意豊かな空間を演出するデザイナー、劇作家、演出家等の育成を目的とした学科です。それらの専門性から演劇舞踊コースと、劇場美術デザインコースを設けカリキュラムを展開しています。 卒業制作は、学びの集大成として、両コースのコラボレーション作品を企画し公演を行なっています。