企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

「何が本当の課題なのか」と深掘りする観察力は、多摩美生が持つ強み

富士通株式会社

写真左から卒業生の富士聡子さん、木内美菜子さん、人事担当者の内田弘樹さん。21年4月に完成した富士通の最新オフィス「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」にて。JR川崎駅直結の28階建て高層ビルの中にあり、最先端テクノロジーの体験や対面ならではのコミュニケーション、アイデアの創出を誘発する数々の仕掛けが施されている。

1935年創立。東京・汐留に本社を置く日本の総合エレクトロニクスメーカー、総合ITベンダー。世界をリードするDXパートナーとして、テクノロジー・サービスやソリューション、製品などを幅広く提供し、顧客のDX実現を支援する。近年は持続可能な社会の実現(SDGs)への貢献を目標に、サステナブル事業にも力を入れている。

https://global.fujitsu/ja-jp/

2024年4月掲載


社会課題を解決するため、観察力を持ったデザイナーに期待が集まる

内田弘樹さん
内田弘樹さん

1996年|プロダクトデザイン卒

デザインセンター
プリンシパルデザイナー

当社は持続可能な社会の実現に向けた新事業ブランド「Fujitsu Uvance」を推進しています。「Uvance(ユーバンス)」とは、Universal+Advanceを組み合わせた造語で、あらゆるもの(Universal)を、サステナブルな方向に前進(Advance)させるという、富士通グループの想いであり、社会課題を解決するビジネスに注力していくという姿勢の表れです。

社会課題を起点に課題を解決していくには、社内の体制を業種・業態にとらわれず「横の繋がり」で動けるように変えていく必要があると考えています。お客様は「何が原因かはわからないが、とにかく困っている」という状況がよくあります。デザイナーは相手に質問を投げかけ「何が課題なのか」を引き出すディスカッション能力が非常に長けており、業種軸で考えるビジネス視点ではなく「人軸」で課題を考えることができます。その力でさまざまな社会課題を解決に導き、当社のUvance事業を推進するという経営陣からの期待をひしひしと感じているところです。

私は当社のデザインセンターで、幹部社員として多摩美卒業生の仕事ぶりを見ています。社会課題を解決するというテーマは、多摩美生は在学中から授業課題として取り組んでいるので、これまで学んできたことがそのまま社会で活きるのではないかと思います。例えば「何が課題なのか、これは本当にいいものなのか」と深掘りする観察力は、多摩美生が持つ強みの一つです。そこから何か新しいものが生まれるんじゃないかと私たちは注目しています。今までとは違うビジネスを作っていくには、今までの成功者の真似をしてもダメです。自分なりの気づきを、これまでの型にはめずに、新しい形として生み出す。多摩美卒業生ならきっとそれができると思っていますし、求められているところじゃないでしょうか。

プロダクトデザインだけではなく「コト」のデザイン=サービスデザインに対するニーズが高まるなか、社内でもデザインの重要性が年々高まっています。デザインセンターには多摩美の卒業生が15人ほど在籍しており、その半分ほどは幹部社員になっています。当社のビジネスに影響を与える立場にいますので、これからもデザインの価値がどんどん上がっていくと思っています。


「デザインで社会をより良くする」という思いは、学生時代の授業で培われた

富士聡子さん
富士聡子さん

2005年|情報デザイン卒

デザインセンター
ビジネスデザイン部
デザイナー/人間中心設計専門家

私が所属するビジネスデザイン部は、Uvance事業の新しいサービスのプロダクトに関わるデザインのほか、ソフトウェアのUX/UIデザインなどを手がけています。そのなかで私は、ヘルスケアが抱える社会課題の解決を目指す取り組みの一つとして、患者さんと病院をつなぐサービスアプリ「ポータブルカルテ」のUX/UIデザインを担当しています。

かかりつけの医療機関が持つ自身の診療データを、患者本人が自分のスマートフォンで閲覧することができ、また、患者本人の同意のもと、その診療データを複数の医療機関に共有することができるというサービスです。さらに、患者個人がスマートウォッチなどで収集した歩数や心拍数といった健康データをクラウド環境で管理し、それを医療機関で活用することによって、より最適な医療サービスを受けることが可能になります。とくに高齢者のかたは複数の病院にかかっていることが多いので、このサービスアプリが普及すると、自分のカルテをどの病院でも見られて、自分の健康状態をデータで医師に伝えることができるようになります。

デザイン面では幅広い年代のユーザーの使いやすさを追求し、シンプルで見やすいようにすることを心がけました。個人の診療データはデリケートな情報なので、どうやったら安心して使ってもらえるかということに注力し、試行錯誤を重ねました。現在は札幌医科大学附属病院で稼働し、実際の患者さんに利用いただいているところです。医師や患者さんからのフィードバックを受けながら、繰り返し改善しています。まずは道内の病院間でデータ連携するところから、徐々にこのアプリの導入を全国拡大していけたら。「社会を良くするための仕事」という点で、すごくやりがいを感じています。

「社会をデザインで良くしたい」という思いは、学生時代の授業で培われたように思います。私が多摩美に在学していたのは2000年代ですが、すでに人の体験を豊かにする「コト」のデザインについて考える授業があり、ものづくりにおいても「何のためにこれを作るのか」といった前段階の議論を重要視していて、熱心に教育していただいたことを覚えています。観察力という点では、大学2年のデザイン・サーベイという授業で京王線橋本駅の売店の店員さんの朝のラッシュ時の動き方をリサーチし、どうやってテキパキとさばいているのか、迅速な販売と丁寧な接客について気づいた点をまとめてレポートにしたところ、先生にすごく褒められたことがありました。当時は「美大ってかっこいいデザインを学ぶところじゃないの!?」と思っていたのですが、そのとき先生がお話ししてくださった、「デザインというのは、人と人、人とモノ、人と社会の関係、ものごとの仕組みを設計すること」という言葉がとても印象的で、今も心に深く残っています。多摩美の4年間でインストールされた「プロセス全体をデザインする」ということが、今の仕事にそのままつながっています。


社内の有志で開発したサービスデザインが2万人ユーザー突破。今後のビジネス化を目指す

木内美菜子さん
木内美菜子さん

2008年|情報デザイン卒

デザインセンター
ビジネスデザイン部
aerukamoプロダクトマネージャー

新卒として入社後はWebやパソコン、スマホのアプリのUX/UIデザインを担当し、その後、展示会で使用するデジタルサイネージのデザインやビジュアルに関わる仕事に携わりました。現在はプロダクトマネージャーとして、サービスの成長戦略に重点を置いて検討することが増えてきています。

「aerukamo(アエルカモ)」という当社独自のサービスには、有志でプロジェクトを立ち上げた2021年時点から携わっています。コロナ禍以降、会社全体がテレワーク主体の働き方に移行したことで、社員同士が社内で会うことが珍しくなり、すれ違いに寂しい思いを募らせた若手社員が「同僚や同期を探すためのサービスを作りたい!」とデザインセンターに相談しに来たことがきっかけで生まれたのが、このサービスです。

アプリに一度ログインすれば、その後はパソコンやスマホなどのデバイスから自動的に位置情報を取得し、どの社員がどのオフィスに出社しているかという情報が一覧で見られるようになります。サービスのコンセプトを言語化してまとめ上げるところから、どういう体験フローを描けば社員にとって使いたいものになるか、使い続けてもらうにはどういう工夫をすればいいか、仕様を検討するだけでなく、社内でのブランディングや広報、認知度アップなどの一連の活動も、プロジェクトの有志のメンバーとともに自分たちで考えながら進めました。

若手社員が自主的に企画から実施まで行えるという自由度の高さは、当社ならではだと感じています。「どう考えて、どう立ち回るか」を自分で能動的に考えて動けるようになりました。立ち上げからちょうど今年で3年目に入り、定期的に行っている満足度調査の結果は、事前に想定していたよりも数値が良く、メンバー全員で喜んでいます。現在の社内利用者数は2万人を超えました。日々アップデートしつつ、今後は社内サービスの枠を超えて、ビジネス化を目指せたらと考えています。

学生時代から「とにかくサービスを作りたい」という気持ちが強く、多摩美ではサービスデザインの授業を全部取っていました。なかでも1年生のときに出会った講師の先生には、サービスを含めたデザインの基礎的なところを教えてもらい、審美性や考え方の面で大きな影響を受けました。「お前のデザインがいちばんダサい!」と言われたこともあるのですが(笑)、社会人になると、そうやってしっかりと叱ってくれる人はいません。ダメな部分は自分で律していかないといけないという厳しさがあり、成長するのも停滞するのも、後退するのも自分次第というところが、学生と社会人との違いだと感じています。