002 ティノスの鳩小屋  ギリシア      /鳩のための白い家

 

 

 アテネの町をうろついていて、偶然立ち寄った本屋で小さな写真集を見つけた。それはティノス島とアンドロス島にある鳩小屋の本で、なんとも不思議な形をした建物にひかれ、とにかく実物が見たくなった。すぐ荷物をまとめて、ピレウス港から船でティノス島へ向かった。冬のエーゲ海は鉛色、ティノス島はアテネからはミコノスの手前にあたり、大きな修道院があるが、シーズンオフのため観光客はゼロ、閉まっていた民宿をあけてもらって静まり返った島に1泊することにした。さて港の近くの村 を歩いてもめざす鳩小屋は見当たらない。本に載っていたタラバドスとカンボスという村の場所を聞くと、島の中央部、バスで山を越えて行かなくてはならない ことがわかった。島は意外と起伏があり、高い山もある。タラバドスはとても小さな村、村はずれまで歩き、丘を回りこんだところでやっと山の斜面に白い鳩小屋が点在する光景が見えてきた。実物を間近で見ても大きさを錯覚しそうな造形だが、2階建てくらいのものが多い。鳩が水を飲みやすいように小川の近く、食べ物を得やすいように麦やトウモロコシの畑の近くに建っている。1階は農機具の収納、2、3階が鳩小屋になっている。薄い石板が庇のように張り出している所に鳩がとまり、その上に小さな入口が並んでいる。壁面は石板による模様で覆われている。糸杉、太陽、を抽象化したパターンだが、どの小屋も異なった装飾である。しかしこの島の住居も教会もこんな装飾は無く、鳩小屋だけが競うように飾られている。

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