「これから何をデザインすべきなのか?」①
教養総合講座B「デザインを話そう。」 第1部
登壇者:永井一史 / 上田壮一 / 宮崎光弘 (担当:木下京子教授)
木下:アートテークギャラリーでの宮崎先生、上田先生の退職記念展に合わせて、統合デザインより永井先生が駆けつけてくれました。
宮崎:退職記念展のタイトルは「デザインを読もう」ですが、講義は「デザインを話そう」にしました。ということで、ゲストに糸井重里さんと永井一史さんをお迎えして、上田壮一さんと私の4人でデザインについて話していきます。
第1部は「これから何をデザインすべきなのか?」というテーマで、第2部は「今、糸井さんに聞いておきたいこと」という内容です。
第1部では、最初に私と上田さんの自己紹介をさせていただき、その次に上田さんと私が多摩美でやったプロジェクトについて、そして永井さんに登場していただき、3人でクロストークをしていきます。
1.【自己紹介 宮崎光弘】
多摩美とアクシスとThink the Earth

宮崎:まずは私の自己紹介ですけれども、その中で退職記念展の内容も少し紹介させていただきます。
変な自己紹介ですが、私は多摩美の名刺の他に2つの名刺を持っています。1つはアクシスという会社の名刺で、もう1つはThink the Earthの名刺です。それぞれ何をやっているかというと、アクシスではクリエイティブ統括を、多摩美では情報デザイン学科で教授をやって、Think the Earthでは理事をやっています。
1週間で何をやっているかというと、月曜から木曜はアクシスでデザインの仕事を、金曜と土曜は多摩美。その中では上田さんと一緒にThink the Earthをテーマにした授業もやっています。日曜日はなぜかドッググッズショップ&ドッグカフェのお手伝いをしています。これは今回の退職展のコンテンツにも出ているんですが、つまり、犬好きですっていう話ですね。
今回の退職記念展はThink the Earthとアクシスの展覧会と言っていいぐらいアクシスのコンテンツもたくさん出していますが、それは主に私が関わったデザインの雑誌についてで、ただアクシスっていうプロジェクト自体は1981年、今から43年前に始まったものです。

宮崎:設立時のAXISのキーコンセプトは「生活にもっとデザインが欲しい」というものでした。つまりデザインがあまりない時代だったんですね。今は信じられないですよね。世の中的には、そういう時代に「デザインのある生活 Living with Design」をテーマに始めたプロジェクトです。ですからこの六本木のAXISというビルには、様々なデザイン関連のショップが入っています。その中で自分たちではインテリアショップやデザインに関する展覧会のプロジェクトなどをやっています。設立時はまだ私はアクシスに入ってなくて。1986年に入社して様々な展覧会の企画や、雑誌のアートディレクション、WEBメディアのデザインなどをやりました。そこで得た知見を生かして、クライアントワークのプロジェクトもたくさんやってきました。

宮崎:その中でも私が1番長くやってきたのは、このデザイン誌『AXIS』で、これは退職展で見ていただいた方は分かると思うんですけれども、世界のデザイナーに表紙に登場してもらって、それを20年間続けました。永井さんにもお父様と一緒に表紙に出ていただきました。それらのカバーインタビューを一冊にまとめて本も作りました。かなりのボリュームになって115組のデザイナーを掲載した480ページの本になりました。

宮崎:今回の展覧会を見ていただくと分かるのですが、その本には手のポートレート写真も掲載しています。1番奥の部屋には大きなテーブルがあるのですが、これはその表紙の撮影の時に書いてもらったサインを転写したテーブルです。なぜ手を私が撮影したかったかと言うと、どんなにデジタルテクノロジーが進んでもデザイナーは、基本的に、頭で考えて、手を動かして、手で描き、手で作るってことはやめないだろうと。それがベースになると思ったので、手のポートレートを顔のポートレートと一緒に撮ってみたいと思いました。今回の展覧会では、巨匠たちの手と一緒に自分の手が撮影できて、それを印刷して持ち帰れる、デジタルインタラクティブコンテンツもありますので、興味がある方はぜひやってみてください。

宮崎:奥の部屋にあるサインが転写されたテーブルは、以前アクシスでも展示したもので、今回リメイクして展示しています。

宮崎:デザイン誌『AXIS』の表紙は7年間違うシリーズだったのですが、7年ぶりに最近またポートレートシリーズに戻しました。その時の表紙は三沢遥さんで最新号の1号前になります。その時にパーティーもやりまして、この緑のボードを作ったんです。ここに立つと自分も三沢遥さんのように表紙なれるフォトスポットなんです。これも会場に置いてあるので、もしよかったら皆さんやってみてください。

宮崎:もう1つだけプロジェクトを紹介しておこうと思います。六本木にある「21_21 DESIGN SIGHT」。皆さんも行かれたことがあると思うのですが、今ちょうど「ゴミ展」という展覧会をやっています。佐藤卓さんと竹村真一さんがディレクションをやっていてアートディレクションを岡崎智弘さんが担当されています。実は「21_21 DESIGN SIGHT」ができたのが2007年なんですけども、その頃から私は関わっていて、ロゴを佐藤卓さんと一緒に作ったりもしていました。建築は安藤忠雄さんの設計になります。

宮崎:10年前に今の「ゴミ展」のような「コメ展」という展覧会が開催されました。その展覧会では「ゴミ展」で岡崎さんがされた役目を私がやらせていただきました。展覧会のテーマは「既知の未知化」で、知ってるものを一度知らないことにしてみる。米なんてみんな知ってるよと思っていることを「米って何だろう?」っていうことから考えてみる、そのために展覧会に参加したクリエイター、デザイナーと一緒にたくさんのリサーチをしました。「おかげさま農場」の高柳さんというか方に指導いただき、1年間米作りの真似事みたいなこともやらせていただきました。他にもコメに関していろいろな場所にリサーチに行きました。

宮崎:日本語の「食」を考えると、食物(モノ)と食事(コト)っていうモノとコトが言葉に入ってますので、モノとコトのデザインとして、「食=米」として取り上げてみようとを考えました。私は主に個性豊かな参加デザイナーのバックアップをする担当で、展示作品は多種多様なものになりました。ここでやっていたことが、実は多摩美でも生きているというか、学生たちといろんなプロジェクトを一緒にやる形で授業をやってきました。
歴代の宮崎ゼミは18ゼミあるんですけれども、そのゼミの学生たちの何人かに集まってもらって座談会のようなものをやりました。それを今回の退職記念展では1つのコンテンツとして見られるように展示してますので、是非ご覧いただければと思います。ということで私の自己紹介を駆け足でさせていただきました。
永井:1つ質問をしていいですか?『AXIS』は1981年に創刊で、その後5年経って宮崎さんは入られたっていうお話でした。改めてその頃の表紙を見てみると、結構ポストモダン的傾向が強い表紙だなっていう印象を展示ですごく感じました。宮崎さんが入られてそこから人物というアイデアに行きついたのはどういう経緯だったのでしょうか?
宮崎:「作り手」というものにすごく焦点を当てたかったっていうのがあります。できてくるものもそうなんですけども、誰が作ってるのか?、どんな考えで作ってのか?っていうことを深く聞いてみたかった。そうするとやっぱりポートレートをしっかり撮りたいなって思って。『AXIS』はデザインのジャンルが限られていなくて、グラフィックも建築もインテリアもプロダクトも本当に色々で、今はもっと広がって様々なデザイナーやクリエーターの方がデザインに対してどういう考えを思っているのかを知りたくて、このシリーズを始めました。
永井:スライドでは手の写真が印象的でしたが、115組の手を見続けたわけですよね?
宮崎:手はそんなに撮っていないんです。全部じゃないです。
永井:確かに僕も手を撮られた記憶なかったです。
宮崎:最初の方のあるところまで手を撮って。
永井:なるほど。顔とかポートレートにはその人のすごい個性って出るもんだと思うんですけど、やはり手にも結構個性は出てるものですか。

宮崎:出てますね。例えば、このアンドレ・プットマン。普通、デザイナーって モデルじゃないからポージングってまずできないですよ。でもこの人はホリゾントにすっと歩いていって、振り返ってこのポーズをしたんですよ。「さあ撮りなさい」っていう感じで。筒井義昭さんという写真家に撮影をお願いしていたのですが、もう撮るしかないっていう感じで撮ったのがこの写真。でも本当に綺麗なポーズだと思うんです。けれども、その頃は手も撮っていたので、もうスタジオに入ってきた時に、僕はプットマンの手を見たんですよ。そしたらシミだらけだったんです。すごく美意識が高い人だったので絶対に撮らしてもらえないだろうなと思ったんです。でも通訳を通してフランス語で手を撮りたいって言ったら、黒いボードの上にすって手を出して、やっぱり「撮りなさい」っていう感じで。でもこの写真見ていただくと分かるようにやっぱり美しいんですよ。シミはあるけれども爪は綺麗に桜色に塗ってるし、ダイヤの指輪もブレスレットも全部自分でデザインしたもので、本当にすごい美意識の高さを感じました。
その隣は、柳宗理さんの手ですね。この手もやっぱすごい。特徴的なものを作ってきたなっていう。
永井:職人の手ですね。

宮崎:手が語ってる感じはしましたね。だからすごく面白くて、それで、今回の展覧会のポスターも上田さんと僕の手にしてみようと考えました。この写真の真ん中は安藤忠雄さんの手ですが、安藤さんは元ボクサーだったのでグーでお願いしまって言ったらやってくれました。色々話出すとすごく長くなるんでもうやめときますけどそんな感じでした。
永井:ありがとうございます。
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