「これから何をデザインすべきなのか?」③
教養総合講座B「デザインを話そう。」 第1部
登壇者:永井一史 / 上田壮一 / 宮崎光弘 (担当:木下京子教授)
❸【上田壮一×宮崎光弘 多摩美での取り組み】
「どうデザインするか」という前に「何をデザインするか」を考える
宮崎:では次に上田さんと私が多摩美で様々な取り組みをしたことについて少しお話をしようかと思います。僕のゼミはデザイニング・エモーションという、「人の感情や感覚に働きかけるデザイン」ということをテーマにしてやってたんですけれども、それとThink the Earthを掛け合わせて2009年からゼミをやっています。

宮崎:「考える。それは力になる」これはThink the Earthの コピーです。これをテーマにThink the Earth自体は、SDGsっていうものが生まれる前から、気候変動とかエネルギーとか森林問題とか水の問題とか生物多様性の問題とか、様々な問題を取り上げていたので、毎年 1つずつ取り上げて授業でやってみようと思ました。食とか消費とかサーキュラーエコノミーとか、面白いものをいくつもやりました。

宮崎:進め方としては、デザインシンキングと同じように、リサーチをしてアイデアを出して、プロトタイピングを作って、ここをぐるぐる回してアウトプットを出す。というような形で、実際にフィールドワークでリサーチをしたり、さっきの「コメ展」の時にお世話になった「おかげさま農場」の高柳さんにお願いして、学生に農業体験をやらせてもったりとか。あとはOisixとの産学共同プロジェクトでは、物流工場を見せてもらったりもしました。デスクリサーチでバーチャルウォーターを調べる学生がいたりとか、色々な人がいました。

宮崎:そこではたくさんアイデアを出して、アイデアだけで展示にしたこともあって。これは防災プロジェクトとしてやったもので、渋谷のヒカリエでアイデアだけを展示することをやりました。Think the Earthのゼミのアウトプットはもう本当に様々で、これは上田さんからいくつか説明していただけますか?

上田:本当に毎回学生さんたちのアイデアとそのアウトプットにすごく感動するんですけど。例えば「卵の気持ち」っていうプロジェクト。今フードロスとかがあって「賞味期限がちょっと早すぎる」とか、「まだ少し熱を通せば食べられるのに」っていうのはネットで調べれば書いてあるんですけど、ちゃんとそれを表示したらいいんじゃないかという提案だったんですね。賞味期限だけでなく調理期限という新しいワードを作って、それが2つ表示された卵のパッケージを作った学生がいました。あと画面の上、レジ袋ってなんとなく今悪者ですけども、エコバッグが有り余っている状態もエコロジカルではないですよね。なんかその辺りがすごくモヤモヤしていた学生さんがいてですね、レジ袋を何度も何度も大切に使ってもらったらいいんじゃないっていう提案だったんですね。なのでレジ袋が悲しがってる表情とそれを使う人に向けたコピーがしっかり書いてあって。メディアとしてのレジ袋のデザインと、それを何度も使う社会の提案をしてくれたんですね。レジ袋っていうのは粗末に扱うとそれが海に流れて、例えばカメさんが食べてしまったりとかってことも起こしてしまうので、単に化石燃料だけの問題じゃない、いろんな問題も孕んでいるんですけども。その時のディスカッションは非常に面白かったなと思いました。
宮崎:「どうデザインするか」っていう前に、「何をデザインするか」っていうのをすごく考える授業になったなと上田さんとやらせてもらって思いました。

宮崎:これはルイ・ヴィトン ジャパンとやった産学共同プロジェクトで、ルイ・ヴィトンが大型店舗でディスプレイに使った造花をアップサイクルできないかというお話しをいただいて、多量に多摩美に造花が送られてきて、それをどう使おうかって学生たちと考えました。例えば病院で使うための造花の花瓶みたいなものを考えた人もいるし、影絵のシルエットで人を作るってことを考えた人もいるし、もう本当様々でした。多摩美のゴミ箱に造花を植えるみたいなすごくコンセプチュアルな作品とか、普通にイヤリングを作る人だとか、廃棄物を学問にして書籍にしてしまう人もいました。企業の課題を解決するだけではなくて、企業と一緒にThink the Earthっていうテーマで課題をできたことが面白かったなって思ってます。
上田:さっき宮崎さんが「既知の未知化」っていう話をしたじゃないですか。知ってることを知らなかったこととしてスタートするっていう。だからテーマも結構同じで。消費だとか食だとかっていうことを知らないところからもう一度学生さんたちと一緒に考えて、僕らも「あっそんな風に見ることができるんだ!」っていう、いろんな学びがあったので、テーマ選びも毎年なんか楽しいんです。今年どうしよう?みたいな。
宮崎:そうですね、そこにすごく時間をかけました。あっ、なにか質問が。
永井:特にこの領域って、リサーチやフィールドワークとかがすごく⼤事だっていう認識は、学⽣にもあると思うんです。ですが、僕も学⽣もなかなかフィールドワークまでできずに、どちらかといえばデスクリサーチとか頭で考えるアイデアを出すというところでぐらいしかできていないことが多いです。やはりインプットで全然変わると思うんです。その辺りについてなにか⾊々経験があれば教えてほしいと思います。
宮崎: 食の時のインプットはやっぱり誰に会うかというのはすごく大きくて、これは哲学者のような「おかげさま農場」の高柳さんっていう方が、来てもいいよって学生を全部受け入れてくれて。その人が本当に面白い方で。自分で栗の木に登っていって揺らして、「ほら栗が落ちたから拾って食え」みたいな感じで、箸とかも全部学生たちに削って作らせて、「おかげさま農場」で作った美味しいおにぎりとおかずを食べるとか。本当にリアルな体験から学生たちはいろんなことを学んだんじゃないかなと思います。それはデスクリサーチだとできないことだと思います。
永井:上⽥さんも、⾼校⽣と⾊んな取り組みをしてますよね。
上田:そうですね。このゼミじゃないんですけど、先ほど話した「旅する学校」っていうプロジェクトを応援していて、三重県の二木島町っていうところがあるんですけど、今、人口200人を切ってるぐらいの過疎の漁師町なんですけども。そこに高校生がしばらく寝泊まりします。お店で買ってくる魚は見てるし、水族館でも魚を見てるけど、海で見るのは生まれて初めてだとか、そこで魚をさばくのも初めてだとか。漁師さんたちが定置網漁の船を出すんですけど、そこに乗せてもらって一緒に網引いたりするところからするんですね。そこにいると、朝から晩までずーっと食べものを作ってるんですよ。自分たちが食べるために。慣れていないから、穫ってきた魚から食べるものにするための時間が膨大にかかるんです。学生たちにとっては、ちょっとコンビニに行けば手に入るっていう便利さの世界とは違う。でも実際に魚はそういうところから届いているわけです。地続きになっていなかった話が急に地続きになって、とてもリアリティを感じるようになる。
永井:それで学生は結構変わりますか?
上田:もちろん全員が変わるわけじゃないですけども、変わる子はすごく変わって。なん度もそこに通うようになったりとか、卒業しても通う子が出てきたりとかしています。

宮崎:さて、いよいよ本題に⼊りますか。
永井:いや、ちょっとまだいいですか。先ほどの説明で、ちゃんと⾒れなかったんですけど、宮崎ゼミのルールじゃないけど「ちょっと違うぞ、宮崎ゼミは」みたいなことが書いてあったじゃないですか。図があって、「なんか⽅法が違う」みたいな。そこら辺をもっと聞きたいなと思ったんです。
宮崎:普通の大学の教授と学生の関係って、先生がいて学生がいてそれが何本もあるっていう感じかなと。
永井:先生がいて、いわゆる学生を教えてますみたいな。
宮崎:はい。でも、宮崎ゼミはその全員の中に僕も入るっていう感じなんですね。もっと言うと、僕と一緒にやってくれている何人かのゲストの人たちも入るっていう。そして、そこに全部クロスの線が引かれてるんで。学生たちはゼミの学生にコメントするっていうのもやらなきゃいけない。だからみんなに対してポジティブな貢献をそれぞれの卒業研究制作とかにしなきゃいけないです。全員にコメントしなきゃいけなくて、コメントシートを全員が書かなきゃいけないっていうのがあって。
永井:あ、そうなんだ。へー、⾯⽩いですね。
宮崎:すごい量のコメントが。
永井:なるほど。先⽣ももちろんするけど、他の学⽣みんなのフィードバックがもらえるんですね。
宮崎:そうなんです。やっぱり同世代の学生が何を考えてるかっていうのは、年齢が40歳以上も違う僕らが話すよりリアルかなと思って、大事にしてやってます。
永井:なるほどね。学⽣からしても「フィードバックする」っていうある種の批評をするのもすごい勉強ですもんね。
宮崎:そうですね。だれがどのような発言をしてるかも全部オープンなんです。以前はそれを全員、紙に書いていました。その時の方がある意味、面白かったんですね。絵も簡単に描けるから。それを全部スキャンして、全員に配るっていうのをやってたんですけども。今はスラックでやっていて、全員分のチャンネルを作って、それぞれのチャンネルにコメントする形式でやっています。
永井:ありがとうございました。

宮崎:はい、いいですか? ではここに入っていきます。もうあと10分。
永井:いや、それぐらいの時間で丁度いいんじゃないかな。
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