「今、糸井さんに聞いておきたいこと」⑨

教養総合講座B「デザインを話そう。」 第2部
登壇者:糸井重里 / 上田壮一 / 宮崎光弘(担当:木下京子教授)


❾【早野綾音さんー情報デザイン学科 情報デザインコース1年】

糸井:「キャッチコピーを考える時、頭がどんな風になっているのか?」 キャッチコピーを考える時っていうのはないんですね。そういう仕事をしなきゃと思ってる時間があるんです。「こういうことかな?」「ああいうことかな?」って思ってる時間がものすごく長いんですね。漠然と何を考えればいいのかが分かれば考えつくわけで、何を考えればいいのかさえわかんないんです。キャッチコピーっていうのだけを「さあ考えろ」ていう風な、学校の課題だったらそういうこともあるんですけど、そうとも限らないんですよね。だからある商品、あるいはそのあるサービスが出た時に、それは一体何なんだろうっていうことをずっと考えてるんですね。それから人がそれを見た時にどう思うんだろう、あるいは先に好きになった人が他の人に伝える時にこれはどういうものなんだよって伝えてくれるんだろう、みたいなことをずっとその商品をいわば自分の頭の中の街に置いて、その中で噂話をずっと聞いてるみたいなことしてるんです。

宮崎:なるほど。

糸井:で、どこかのところで、「まあこういうことだよ」って言ってくれるもう一人の自分が見つかるんですよね。例えば日産セフィーロだと「くうねるあそぶ」だよって、「あるなあ」っていうことを思うことがあるんですね。自動車のコピーに「くうねるあそぶ」ってつけるって思いつくまでっていうのは、自動車に近いところでずっと考えてるんです。日産セフィーロで、理屈で考えてるコピーは「33歳のセダン」なんですよ。33歳ぐらいの人が買える値段で、当時はまあそういう時代だったんで。で、それがセダンを選ぶっていうのと重ねて考えた時にこの車だなっていうので、これは使わないかもしれないけど、セフィーロっていうその車名の上に「33歳のセダン」ってつけとけば、まず上に何つけても安心だなっていう落ち着けどころをまず先に作ったんですね。「33歳のセダン」がすごく実用で使うわけはないし。33歳の人が今から恋人とっていうには33歳って年は、今までの自動車の概念からするともう結婚してるかもな、とか。いろんなことを考えると、33歳の人が今足りてないものは何なんだろうとか、今喜ぶものは何なんだろうとか。さっきの「控えめな創造力」じゃないですけど、結局のとこ「食う寝る」っていうのはやっぱりベースだからそこをすごくしっかりと言った方がいいんじゃないか。っていうその安心感とか安定感とかって、セダンっていう言葉の中にも入ってますけど、そこで言えたらそりゃいいだろうなってことを、無意識で思ってるところに、あっ落語で「食う寝る処に住む処」っていうのがあったなと。

あれは寿限無っていう落語で、「食う寝る処に住む処~パイポパイポの~」とこの先分かんなくなってくるんですけど 。「食う」「寝る」「住む」っていうのがある種の安定の象徴で、でもそれだけじゃつまんない人が買う車なんだな、っていうのが「遊ぶ」っていうことで。「食う寝る住む」っていうコピーで車を出したり、「食う寝る走る」って出してもあんまり意味がないんですけど、「食う寝る」じゃ足りたいものこそが欲しいんだって思ってる人に向けて考える時には、「食う寝る遊ぶ」かな、みたいなことを、一人の自問自答がずっと続いてる中で、ある日その「食う寝る遊ぶ」っていうのがあったなって。生活に密着していて安定してるんだけれども、それだけじゃ満足できない楽しい車、みたいなことを考えて、「くうねるあそぶ」ってつけるといいかもなっていうあたりで1回。うんまあ多分紙に書いたんでしょうね。「くうねるあそぶ」っていうものの考え方に賛成する人が集まっていろんな話ができるような共同体を作ったらどうだろうと当時思ったんです。実はあのキャッチフレーズは最初は、「くうねるあそぶ倶楽部」だったんです。クラブって漢字なんですけど。「くうねるあそぶ倶楽部」っていうのでみんなこの車買った人が会員になって一緒に遊んだり、一緒に話し合ったり、一緒にご飯食べたりするような、そういう会員サービスをやる車にできないかなっていうのを、コピーライターなんですけどもそういうことも一緒に考えていって。

そうしたら先輩のクリエイティブディレクターがすっごく酔っ払いながら、ごまかしごまかし「倶楽部を取ったらどうだろう」って言われたんです。酔っ払いながら何回も寿司を持ってきたりなんかしながら、「糸井ちゃんさー、倶楽部はいるか?」こういうやり取りをくり返して、思い切って「くうねるあそぶ」になったっていうのが、例えば1つのキャッチフレーズができるまでの物語なんですね。考える時に考えるっていうテストの問題に対して答えを考えるような時間っていうのはほとんどありません。その前に助走したり、ぐるぐる回ってる時間がほとんどです。

宮崎:はい、よろしいでしょうか、そういう答えで。なんか追加で聞きたことある?聞いてどう?

早野:なんか頭の中でそんなストーリーを考えて、その声が聞こえてくるみたいな感じが、すごくいいなって思いました。

糸井:あの自分でも自問自答しないですか?

早野:あっ、したりします。

糸井:例えば恋占いみたいなのって花びらを「好き」「嫌い」って言うじゃない。その「好き」「嫌い」って言葉自分で聞いてるじゃない。で、嫌いが出た時に、「えっ!」て他人事みたいに言うじゃない。あれが自問自ですよね。

早野:うん、わかります。

糸井:みたいなことだから、今日多摩美で何話すかなんていうのも考えてないんですよ。でもここの流れの中で何か自分に元々あったものが「あっ繋がった」とか、「そっちに生えてる草と、僕のとこに生えてる草が同じだったから一緒に合わせてみましょう」とか。その時に離れているものが一緒になった時ほど面白いです。

宮崎:ありがとうございます。

糸井:これでいいですか?

早野:大丈夫です。ありがとうございます。

糸井:各キャッチフレーズについて全部こういう話はできます。

宮崎:すごいですよね。聞いてみたいけど多分すごい時間がかかるから。

糸井:あ、「ほぼ日」を見ると谷山雅計さんっていうコピーライターが、僕に「どう作ったんですか」っていうインタビューしてるページがあるから、それを見て。「ほぼ日」を毎日見るようにね。

早野:ありがとうございました。

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