「今、糸井さんに聞いておきたいこと」⑬
教養総合講座B「デザインを話そう。」 第2部
登壇者:糸井重里 / 上田壮一 / 宮崎光弘(担当:木下京子教授)

⓭【沼部凪さんー情報デザイン学科 情報デザインコース3年】
宮崎:次5人目です。今マイクを運んでくれていた彼女。沼部凪さんです。実は3年生です。そして最後に質問するんですけれども。彼女は、前橋ブックフェスに行ってきた人です。3冊小説を持っていき、「本当にもらってもいいのかな?」と思って2冊の雑誌をもらってきたと。で、行って嬉しかったのは、あの場に人がたくさんいたことでしたと。地元だからね。どっちかというと地元でもないけど、まあ群馬県出身です。
糸井:うん、ちょっと近いですね。はい。
宮崎:「様々なジャンルのたくさんの本が並べられて、小さな子供も大人もみんな同じように真剣に本を探していました。たまにしか帰れない地元との隔たりを感じなかったのは、気楽な気持ちで来た人みんなで同じことをしていたからなのかもしれません。こんなイベントが、できちゃうんだなと驚きました。」と。で、これが彼女が撮ってきてくれた写真ですね。

糸井:さびれたアーケード街に。
宮崎:そう、すごいですよね。僕まだ行けてないんですけれど。そう、こうなっちゃうんですよ。で、彼女はこのガイドブックも素晴らしいって言ってました。で、『暮らしの手帳』を見つけて、もう1冊『AXIS』を見つけてくれて。『AXIS』が自分の生まれ年と同じ年の発行だったんで持ってきてくれた。で、「前置きが長くなってしまいましたが、『前橋ブックフェス』という今までにない新しいイベントを2年前に実現された糸井さんにお聞きしたいことがあります。トークショーで話されていた開催の経緯について、「やりましょう!」から始まり、終わってみれば「できちゃった」という成り行きだったと伺いました。そこで「やりましょう!」となる前の、「こんなことをやってみたい」という考えを最初に誰かに伝えるとき、わかってもらいたいと思うときに大切にされていることは何ですか?」と。

糸井:ああ、いい質問ですね。
宮崎:補足をなにか是非。本人どうぞ。
沼部:補足ですか?えっとなんだろう。ちょっと聞いてみたいなと思って質問させていただきました。お願いします。
宮崎:あっ、それだけでいいんだ。なんか、でもいいですね。
糸井:いい質問です。だってあなたが「こんなことをやってみたい!」とか「やりましょう!」って言う人になりたいんだよね。
沼部:そうですね。なりたいです。
糸井:だから言うわけで。誰かに対して「いいね!」っていう人でもいいんだけど、「やりましょう!」っていうのはとても勇気がいるし、わかってもらえないかもしれないし、そこのところで僕がどうしてそれができるんだろう、っていう質問だと思うので、僕はとてもいい質問だと思います。ありがとうございます。これもさっきのコピーを考える時と同じで、急に思い浮かぶわけじゃないんですよ。やっぱり。で、ずっとその辺のことを考えてる時間があって、誰に言うこともできないし。寝ていて飛び起きてメモに書くこととかもあるんですけど。そういうのは大体大したことないんですよね。で、やっぱりぐるぐるぐるぐる回ってる時間っていうのがありまして、ブックフェスについては、とんでもない昔です。20年も前に。
宮崎:えっ、そんな前なんですか。
糸井:JR東日本の広告を電通とやっていたんですけど、トレイングっていうキャンペーンがあったんです。で、その時に、ドネーションていう言い方をするんだけど、その地域を活性化させるのにどうしたらいいかっていうことも、JR東日本に乗ってもらうと助けになるわけで、その見方もあるんだけど、それをどう考えるか。例えば「そうだ京都いこう」だったら、行ってみたいようなお寺とか桜とかを出しますよね。東北だったらどうするか、角館の桜とか、色々やるんですけど。そういう中に、僕らがせっかくやるんだったら、「自分たちがいる前はなかったけど、やった方がこの後面白いんじゃないの」ってことをやりたいと思ったんですよ。そういう例は、例えば長岡の花火大会ですよね。戦後の復興に合せて花火大会やったのが今に至っているわけで。そういう中で、東北で僕はやったことあるんですけど、廃校にみんなで泊まるって遊びをしたことあって。みんなで、車で出かけて行って、ドラム缶のお風呂沸かして、教室に泊まって、カレー作ってみんなで食べて。あそこに本を持って行っていたら、みんなが交換できたなっていうことを思ったんです。東日本の仕事の時に、本をみんなが、例えば角館に集めて取り換えっこするっていうのやったらどうだろうって言って。会議中に思いついたんで、それを言ったんですけど、みんなが「いいね、いいね」って言うんですよ。案外みんな「いいね」って言ってくれるんですよ。1つ弱点があったのは新幹線で本を運ぶ人よりも車で運ぶ人の方が多そうだなっていう。それとJR東日本企画の人としてはそのことを一生懸命やってもお金はかかるし、誰も感謝してくれなさそうだし、やりたくないんですよね。結局「いいね、いいね」とはいうものの、やらなかったんですよ。「あれなー、やってみたいもんだな一度は」って思いながら。僕自身が部屋にある本を何年かにいっぺん全部総ざらいで捨てるんですよ。それも実に忍びない。本だから。そういう人いっぱいいるだろうなって話は何回かしたことがあって。建築家の人が新しい建物を建てる時に資料で買った方が山ほどあって、それは全部次の仕事の時にはいらなくなるとか、そういう本が邪魔になってる話を山ほど聞いていたんで。今までは行ったら本を交換できるっていう発想してたけど、邪魔になってる本を集めるっていう風に、もう1回視点を向け直してみたらどうだろうっていうので、俺は出すよって思ったんですよ。それで前橋をどうするかの会議の時に、なんで出ていたんだか忘れちゃったんですけど、「ブックフェスってできるような気がするんだよね」って言ったら、まあそこにいた人が「やればいいじゃないですか」って言ったんですよ。実はブックの中にその袋文字で見ると分かるんですけどロックがかくれてるんですよ。

糸井:あそこBを下でつなげてるでしょう。あれつまりロックに見えるんですよ。あそこで繋げているとこを取ると。で言っちゃいけないけどFUCKにもなってるんですよ。で、そのくそったれ部分とブックとロックが全部この文字の中に入っているっていうのが、ちょっとこういたずらとして面白かったんで。そういうことも言いながら、やるんだったらやれるかもねって言って、その時にいた人がみんな「やりましょう、やりましょう」って言ったおかげで。特にお金を集める力もある人が、そこにいたんで。スポンサー探しのことを先に考えるのが今の風潮なんですけど、僕はそういうのを考えるの嫌いなんです。後で考えるんですよ。その時にはたまたまスポンサー探しができる社長がいたんで本当になっちゃった。市役所の人も「前橋のためになるんだったら」って言って。で、やることになったっていうわけなんです。
今の話はどこが重点かって言うと、前にうろうろしていた時間がものすごく長い。ブックフェスっていうのがロックフェスにもなるなって思ったところが、これを言った時に思いついたんで、そういうことがもう1個加わるとみんなが大したことないなっていう時でも、「おー!いいねー!」って言うんです。なんかおまけがちょっとつくと人は喜ぶ、「うん、なるほど」みたいな。
時間がなくなってるのにわざと言うんですけど『MOTHER2』っていうゲームを作っていたとき、ものすごい難行していたんですよ。で、やっとハーハーいいながらできそうになった時には、僕はもう頭の中はで次が考えたくてしょうがなくて、一生懸命毎日考えたのは『3』のことだったんですよ。で、『2』でヒーヒー言ってる会社にまだ起きているかなと思って、「もしもし糸井ですけど。すっごくいいこと考えたんだよ。『3』なんだけどね」って言って色々話し始めたら、「糸井さんお願いですからやめてください」。
そういう嫌がられることは今の会社でもよくあります。だから嫌がられるくらいアイデアを出す人になるのがコツだと思うんで。出しなさい!
沼部:はい。
宮崎:はい。よかったですね。大丈夫ですか?
沼部:大丈夫です。ありがとうございます。
宮崎:はい良かったです。で、もう最後なんですけれども。
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