L・J・カルティエの腕時計「サントス」
Louis-Joseph Cartier
1904
042ブラジルの裕福なコーヒー農園主の末っ子アルベルト・サントス=デューモンド(1873-1932)は、孤独な幼年時代から、フランスのSF作家ジュール・ベルヌの熱狂的なファンであった。18歳でサントス=デューモンド家の財産を相続すると、彼は有人飛行機の実現を夢見てパリに移住する。1906年以降、しばらくの間、この変わり者のサントスによる日本製シルクと竹材を使った飛行機こそ、世界で初めて空を飛んだ有人飛行機と信じられていた。その偉業がアメリカにも伝わり、彼はセオドア・ルーズベルト大統領からホワイトハウスに招待されている。しかし、正式な証人はいなかったものの、その2年前にアメリカのライト兄弟が世界初の有人飛行に成功していたのだった。結局、サントスは自殺してしまうが、生前、間接的に別の貢献をすることになる。飛行中、操縦桿を握り続けているために懐中時計を見られず困ったという話をサントスから聞いた、友人のパリの貴金属商L・J・カルティエ(1875-1942)は、世界初の商業生産用腕時計の開発に成功し、この問題を解決した。腕時計はすでにイギリスにも存在していたが、腕時計が定着したのはカルティエの腕時計以降である。それまでの形とは異なる角形で機械文明時代を象徴する剥き出しのネジをあしらったサントスのオリジナル腕時計は、秒針、金製ボディ、革製ストラップ金製バックル、サファイアを冠した竜頭が特徴である。


【素材】金、透明ガラス、エナメル塗装、皮革。写真は1904年オリジナルモデルを1990年に復刻した作品。


100 DESIGNS 100 YEARS
20世紀を創ったモノたち
メル・バイヤーズ/アーレット・B・デスボンド
森屋 利夫/成澤 恒人
2000.05.05
株式会社アクシス