M・シュタムのサイドチェア「B33」
Mart Stam
1926
042 カンチレバー・チェアは、1922年ハリー・E・ノーランがアメリカで特許を取得し、1923年ゲルハルト・ジュトユットゲンがデザインしたものだが、その存在は忘れ去られて久しい。今日すぐに思い出すカンチレバー・チェアといえば、ドイツ人建築家マート・シュタム(1899〜1986)がデザインした椅子や、Mヴロイヤーが1927年から1928年にデザインし、いまだにモダンさを失わない「B32」(p.62参照)や、1927年L・ミースーファン・デル・ロー工作の「MR」である。マンネスマン社(p.62参照)の開発した柔軟性に富んだスチールパイプが、こうした椅子のデザインを可能にしたのである。1924年シュタムがデザインした椅子は建築学的な構造をしていたため、スチール製の棒を配管用継手でつないだ無骨なものだった。バウハウスの教授ミースは、ブロイヤーが学生の頃に曲げの技法を使っていたことをシュタムに教えた。1926年シュタムは曲げの技術を使って、カンチレバー・チェアを洗練されたデザインに変えることができた。彼がミースの勧めもあって1927年シュツットガルトで開催されたワイセンホーフ・ジードルンダ展にこの椅子を出品すると、すぐさま「B33」として商品化されることが決まった。右の最終モデルでは、両前脚の間に渡してあったスチールパイプを座下のスペーシングロットに代え、背は座りやすいように後方に傾けられた。シュタムがこの椅子を同展に出展してから数週間後、ミースも椅子のデザインを発表した。権利の帰属がはっきりしていなかったため、1920年代後半にハンガリーの実業家アントン・ロレンツとトーネットに製造メーカーも加わって、カンチレバー・チェアの原理の独占権をめぐって訴訟が起こった。


【素材】ニッケルメッキの上にクロムメッキを施したスチールパイプ、布地または皮革


100 DESIGNS 100 YEARS
20世紀を創ったモノたち
メル・バイヤーズ/アーレット・B・デスボンド
森屋 利夫/成澤 恒人
2000.05.05
株式会社アクシス