A・ビアレッティのコーヒーメーカー「モカ・エクスプレス」
Alfonso Bialetti
1929
042 1920年代から1930年代のイタリアでは、伝統主義とモダニズムがせめぎ合っていた。しかし、自社製品にモダンなデザインを取り入れようと躍起になっていた各工業製品メーカーは、アメリカの大量生産技術と製品の標準化システムをさかんに取り入れようとしていた。こうした時代の移り変わりを明らかにしたのが「装飾芸術」部門に新たに「現代工芸」部門を加えた1930年開催のモンツァ国際ビエンナーレであった。この展覧会にはアルフォンソ・ビアレッティのコーヒーメーカー「モカ・エクスプレス」も出品された。これは初めて工業技術によって作られたポットであったが、手作りの高価な物で、ずんぐりしたあか抜けのしない形をしていた。1933年以来、現在までデザインの変わっていない光沢のある大量生産品とは全く異なっている。現在、写真のモデルは、イタリアの95%の家庭で愛用され、世界各国で2億5,000万人の人々に使われている。しかし、人気が出たのはアルフォンソの弟レナートが本格的にマーケティングを開始した1950年代以降のことである。このコーヒーメーカーを考案した兄のアルフォンソは製品の宣伝が不得手であった。この8両ポットはおいしいエスプレッソに不可欠な高蒸気圧にも耐えることができた。ポット下部の沸騰した熱湯が蒸気圧で押し上げられ、ひいたコーヒー粉の中を通過して出てきた濃いコーヒーが、ポット上部で溜まり、逆流しない優れた構造になっている。ストーブの火に直にかけておき、ディナーの後のコーヒーを楽しむのに最適である。ポット下部のイラストはあまりいただけないが。


【素材】底部がチルカストのアルミニウム、上部がダイキャストのアルミニウム、柄とつまみは耐熱べ一クライド


100 DESIGNS 100 YEARS
20世紀を創ったモノたち
メル・バイヤーズ/アーレット・B・デスボンド
森屋 利夫/成澤 恒人
2000.05.05
株式会社アクシス