うつろう

高田 成美

担当教員によるコメント

彼女は当初具体的な形、例えば道具などの外観を粘土で形作りその形状の性格に沿って表層を指ではなくピンセットで摘まむ仕事を始めていた。彼女自身は自覚的ではなかったかも知れないが、人間が外部世界を知る方法として触る行為は極めて原初的な方法である。同様に摘むという行為も人が具体的対象を探る糸口である。この摘むという行為は、粘土の可塑性が呼び覚ます視触覚的な方法による世界の読み解きともいえる。彼女はある構成要素が集合集積し動態として、運動を感じるような形態となる制作に親和を持っていると語っている。しかし今回の仕事は要素が集まった形態の魅力ではない。彼女でしか知覚できない外部世界の形象を、彼女が苦悩と共に摘み続けることによって表された形態である。故に我々が触知できることの素晴らしさがある。

教授・井上 雅之