うつそみの
山本 衣織
作者によるコメント
生き物は皆同じ生命の重さだが、人間はそれに優劣をつける。
その優劣の一番下に居るのが虫だと考える。そしてその虫の中でも、害虫なら殺していい、益虫やかっこいい虫なら大切にするなど大きな差がある。
カブトムシは生体も死体も大切にされる。しかしセミは、鳴き声がうるさい、セミ爆弾やセミファイナルなどと嫌われている。さらに、果樹園で害虫扱いされているセミもいる。
宙にあるのは、ミンミンゼミの羽が咲くソメイヨシノ。桜はセミが好きな木だ。どちらも羽や花を持つ間だけ注目される。
羽が華々しく咲き乱れる中、カブトムシは悠々として、羽のないセミは砂利のように散らばっている。
私は今まで、ブロンズ鋳造で虫を作り続けてきた。なぜなら、小さくても質量があり、鋳造の過程は虫の完全変態の過程と似ているからだ。
本作品は、その1つの集大成となった。
担当教員によるコメント
「作家は詩人の正確さと、科学者の想像力を持つ必要がある」
小説『ロリータ』を書いた作家のウラジーミル・ナボコフは、蝶の採集に魅入られ、優れた論文を残す研究者でもあったそうだ。この話をとある本で読んでいて、山本さんを思った。山本さんもまた、昆虫に魅せられた作家の1人だ。
蝉の羽で作られた桜の花とカブトムシ。ぼとっ、ぼと、ぼと…。羽のない蝉の胴体が、黒光りの玉砂利に散らばる。静かに咲き乱れる命と、捨て去られる者の決別の音だ。作者の死生観が際立つ。
儚い昆虫の変態と、熱で溶かされ型に流し込まれ恒久的に形を止めんとするブロンズの変態は、確かに実は、相入れる。そして作家の思惑通り、ブロンズの身体を獲得した蝉は小さくても、見た目よりずっと重い。表象のレアリズムへの探求の手を止めず、その先に何かを求めている。一つ一つの命に誠実に向き合おうとする作者の姿勢に畏怖さえ覚える。
准教授・中谷 ミチコ
- 作品名うつそみの
- 作家名山本 衣織
- 素材・技法ブロンズ鋳造・鉄・玉砂利
- サイズサイズ可変
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- 担当教員