心を治す湯治宿

井手 亜優美

作者によるコメント

ストレスを抱えながら過ごす人々が利用する心の治療のための湯治宿の設計。
湯治とは、温泉地に長期間滞在し特定の疾病の温泉療法を行う伝統的な医療法だが、近年流行している現代湯治は、短期滞在が主流。そのため、観光の要素が強く高価な施設が多いが、それは本当の心身の回復に繋がるのだろうか。
ゆっくりとお風呂に浸かり、バランスの良い食事をし、時間の移ろいや景色を楽しみ、心と体を休める。特別なことは何もせずとも丁寧に時間を過ごすことで心身の回復に繋がるのではないか。
普段、気持ちにゆとりが持てず精神的に辛い思いをしている人々が、生活を見つめ直し、自然の美しさに感動する素晴らしさや、それによって心が癒されることを感じて欲しい。
そんな、「心を治すため」の現代湯治の宿を提案する。

担当教員によるコメント

温泉の宿泊施設であるが、ホテルというより現代の湯治場ともいえる施設として提案している。
広島県、鞆の浦に近いこの敷地は海際に道路や鉄道がなく、邪魔されるものがなく山を背にして海に臨むという長期滞在にふさわしい立地である。また瀬戸内海は干満の差が大きいことからその水面の上下を楽しむ場所を客室と浴場の間に設け、変化する海面を楽しむことができる。地形に合わせて角度をつけて配置していることや緩い勾配の切妻屋根によって水平線を強調したデザインは穏やかな海面や背後の山並みの景観に調和していて、そこから見える景色まで含めて、この場を楽しむための設えとしてデザインされているところが高く評価でいる。

教授・岸本 章