百姓 -ひゃくのしごと-
井原 花奈
作者によるコメント
言葉というものは生きていて、使われないと消えていきます。
生きているからこそ扱いには気をつけなければいけません。
だからといって注意が必要な言葉たちは「リスクがあるから、炎上するかもしれないから」と消えていってしまっていいのでしょうか。
私たちが使う日本語には温度や湿度を多く含んだような言葉が多くあります。
そんな言葉たちが暮らしや伝統、人々の思いを繋いでいるのではないかと思うのです。
どうか無関心にならないように。
豊かな言葉たちと生きていきたいと強く思います。
そして血のつながりや縁もない私を四歳の頃から今まで育ててくれた越後妻有という場所、関わってくださった全ての方々に心から感謝いたします。
大好きな場所で大好きな人たちと作品を作ることができて本当に幸せでした。
担当教員によるコメント
百姓の「姓」は「しごと」や「わざ」という意味で百姓は百の仕事ができる人のこと。いろんなタスクを誇りをもってやっているということを、2ヶ月間芸術祭のために滞在していた新潟で知り衝撃をうけた井原。
きりっぱなしの布にステンシルで「ひゃくのしごと」描いたものを、収穫された稲穂を干す「はざかけ」に暖簾のように掲げた力強い卒業制作だ。デザインは「誰かによろこんでもらうもの」と井原は理解している。
井原はデスクトップで終わるのがデザインではないのを知っている。ステンシルされた布を束ねて新潟に戻り、大雪の積りつもる田んぼや畑にはざかけを設置し撮影。農家の方々に布をもってもらったポートレートを撮影。
制作の中盤でイラストレーションのトーンの調整に苦戦していたが突如として「できました!」と完成形をもってくる。新潟で撮影してきたら?といったら即答で「行ってきます〜!寒そうですけど」。見事だぜ、そのフットワーク。
そんな写真たちをまとめた本がまたすばらしい。クラフト感にあふれたその厚みのあるブックデザインはまさに手間がかかっている。わざ、ひゃくの仕事がはいったものになった。行動力、瞬発力こそが井原の真骨頂なのかもしれない。
考えてみたらデザインという仕事もかっこいいことばかりでなく「ひゃくのしごと」なのかも。育児だってスポーツ選手だって教員だって「ひゃくのしごと」はいろんなところにある。
みんなそれぞれの立ち位置でひゃくのしごとを一生懸命頑張ってる。井原のおもっているのはそういうことだったのかも。届くデザインはデスクトップで完結するのものじゃなく、人の手にふれて汚れたり、経年変化されることで完成することが多い。人の思いの重さ。統合デザイン学科の卒制はクールでインテリジェンスある白っぽいものが多いけど、井原の卒制は汗と涙と思いが染み込んだまさに茶色っぽい土着性のある人間らしいものになった。
卒展の会期中に新潟の農家の方々が誇らしそうに嬉しそうに笑顔で作品をみつめているのをみて涙がでそうになった。視点と行動力が評価され、最高評価の卒業制作金賞「INTEGRATED GOLD」を受賞。やっぱり伝わったね。
卒業したら電通のアートディレクターとして巨大な組織で巨大なクライアントに立ち向かうことになるがこのスタンスと変わらずにとそのコミュニケーション能力とやさしい「寄り添うデザイン」と大好きな「ことば」でしぶとい諸事情たちを超えていってほしい。大好きなF1なみのスピードで。ビューンと歴史は変わる。井原はきっと変えてくれるだろう。笑顔のままで。
教授・佐野 研二郎
- 作品名百姓 -ひゃくのしごと-
- 作家名井原 花奈
- 素材・技法布 竹 紙・ステンシル
- サイズ3000×12000×1000mm
- ジャンルインスタレーション 本
- 学科・専攻・コース
- カテゴリー
- 担当教員



