東京国際ミニプリント・トリエンナーレ2015によせて

1995年に創立60周年を記念して始まりました本トリエンナーレは、今回で第5回目の実施となります。今回は多摩美術大学創立80周年記念として新たにインターネット等を通じて一般公募を世界に呼びかけ、85カ国・地域の2,000点を越える版画作品の応募があり、その中から審査を経た約300点を一堂に展示する10年ぶりの取り組みとして、過去4回のトリエンナーレに続く催しとなっています。

21世紀に入ってからのめまぐるしく流動する世界情勢と社会の変化に対して、芸術分野が果たす役割も益々重要さが増していくでしょう。そういた状況をふまえて各国・地域の特色ある作品を一堂に展示することは、地域性を交えた国際感覚の共有と理解につながる意識醸成と問題提起を将来に向けて発信出来る機会になると考えます。

また、版画の特性を活かしたインターネットを活用した公募と、郵送による作品の集積および学術データの公開という新旧技術の融合により、新しい表現方法の創出と拡張にも貢献出来るのではないでしょうか。そして何よりも、多才で創意にあふれた作品の数々をご覧頂き、作家の新鮮な感性や卓越した技量に触れていただければ幸いです。

本トリエンナーレの主旨にご賛同頂き、出品頂きました作家の皆様、開催にあたりご後援、ご協力、ご協賛を賜りました諸機関ならびに関係者の皆様に厚くお礼申し上げます。

多摩美術大学理事長
藤谷 宣人

総評・審査経過

版画とは何らかの原版(A)と、それを紙等に転写したもの(A')の「同一性と差異」に基づく表現形式である。重要なのは、その芸術性はあくまでもAとA'の関係性に依拠する、もしくは出来することであり、これはそのまま版画によってしか実現できない美が現前しうることを意味する。原画(肉筆浮世絵)に対する浮世絵の芸術的優位はその良い例であろう。

注記すべきは、こうした関係性に伝統的に〈手〉が介入してきたことであり、ここに本展が、版から刷り(摺り)までの過程をすべてパソコンで操作する、いわゆるデジタルプリントと一線を画す大きな理由がある。版画における〈手〉の介入はまた、その最大の魅力の一部、つまり小ささ(親密性)、近さ(直接性)をも規定している。私たちがミニプリントの形式にこだわってきたのは、便宜的かつ現実的な理由もさることながら、版画の原点に迫ろうとする強い意欲の現われとみなされてしかるべきであろう。

今回は2,174点(海外1,735、国内439)の応募があり、画像による一次審査を通過したものが342点あった。二次審査はそれらの内、到着した実作品331点を会場に並べて、審査員6名によって重複を避けつつ、各自が10点ずつ選んだものに、今度は重複を気にせず、やはり10点ずつ付箋をつけるところから始まる。結果、3票を得たものが1点、2票が12点。圧倒的な差がつかなかったので、3票作品(山田彩加)と、2票作品群から強い支持のあった1点(イランのMehrdad KHATAEI)とのあいだで再度投票をしたところ、3対3の同票であった。ここで協議に入り、森厳な騎士のイメージで終始異彩を放っていた山田作品(リトグラフ)を大賞に決定し、状況の重さを伝えるKhataei作品(銅版画)、魂を覗くかのようなタイのPiangchompu作品(木版画)を準大賞とした。全体として力作ぞろいの、実に緊張を強いられた審査であった。

審査員賞は別として、他に注目したものとして、自然を澄明な無数の線条と化した久後育大、濃淡のプランの重なりで風景を構築するEun Ji CHOI(韓国)、日の出を瑞々しくとらえたVlad ZARETSKIY(ロシア)の作品をあげておきたい。

 

多摩美術大学大学院美術研究科長/美術評論家
本江邦夫

応募状況

応募国数84ヵ国・地域/応募者数 2,174名 (海外1,735名、国内439名)/入選者数 324名 (海外246名、国内78名)/入賞者数 20名 (海外12名、国内8名)

国・地域名 応募者数 入選者数
Japan 439 78
India 190 9
Poland 174 12
Mexico 148 11
Thailand 71 13
Serbia 65 4
France 57 3
Italy 55 7
Ukraine 53 8
Brazil 52 2
United Kingdom 50 3
Russian Federation 49 6
Argentina 47 2
Turkey 46 4
USA 44 8
Taiwan 44 7
Spain 42 7
Indonesia 35 2
Canada 28 9
Bulgaria 27 10
Croatia 24 3
Romania 24 5
Australia 23 5
China 22 5
Hungary 23 5
Lithuania 16 4
Germany 15 4
Venezuela 15 4
Iran 14 4
Netherlands 13 3
Egypt 13 0
Greece 13 2
Korea 13 5
Belarus 12 4
Finland 12 2
Portugal 12 1
Macedonia 11 1
Belgium 10 1
Chile 10 0
Slovakia 10 3
Slovenia 10 2
Czech Republic 9 2
Israel 9 1
国・地域名 応募者数 入選者数
Bosnia and Herzegovina 8 1
Ireland 8 2
Malaysia 8 3
Colombia 7 2
Estonia 7 2
Latvia 7 3
Bangladesh 6 2
Sweden 6 1
Austria 5 2
Moldova 5 2
Peru 5 2
Switzerland 5 1
New Zealand 4 2
Costa Rica 3 1
Hong Kong 3 2
Kosovo 3 1
Montenegro 3 1
Norway 3 1
Albania 2 1
Cuba 2 2
Ecuador 2 1
Nepal 2 1
Pakistan 2 1
Viet Nam 2 1
Algeria 1 1
Armenia 1 1
Bahrain 1 0
Cyprus 1 1
Denmark 1 1
Dominica 1 1
Guyana 1 1
Iceland 1 1
Jordan 1 0
Mongolia 1 1
Morocco 1 1
Namibia 1 1
Panama 1 1
Puerto Rico 1 1
El Salvador 1 1
Singapore 1 1
Uruguay 1 1
Total 2,174 324

応募受付 2015年1月5日(月)―2月28日(土)

応募規定

  • 2013年以降に制作された作品であること
  • 作品は1名につき1点
  • 作品には作者のサインとエディションを明記すること
  • 作品の版種・技法に制限はなし。ただし、プリンター出力のみの作品は受付けない
  • 作品サイズは紙サイズも含めて20×25cm以内
  • 環境を汚損したり、取扱いの困難な作品は受付けない場合がある
  • 応募作品は多摩美術大学美術館に収蔵する
  • 応募はウェブサイト上の応募フォームへの入力により受付け、一次審査は作品画像により行う

審査状況

審査日時
一次: 2015年3月18日(水)
二次: 2015年5月16日(土)
審査員
一次
小林裕児(画家)
佐竹邦子(版画家)
古谷博子(版画家)
本江邦夫(美術評論家)
渡辺達正(版画家)
二次:
小作青史(版画家)
小林敬生(版画家)
建畠晢(美術評論家)
吹田文明(版画家)
峯村敏明(美術評論家)
本江邦夫(美術評論家)
各五十音順/敬称略
  • 大賞(1名)
    300,000 円
  • 準大賞(2名)
    100,000 円
  • 審査員賞(6名)
    70,000 円
  • 美術館賞(11名*)
    30,000 円
*当初10名の予定を審査の結果11名に変更
jury
小作青史
版画家
portrait
小林敬生
版画家
portrait
建畠晢
美術評論家
portrait
吹田文明
版画家
portrait
峯村敏明
美術評論家
portrait
本江邦夫
美術評論家
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