情報デザインコースの3年次演習「メディアデザインⅠ」(担当教員:永原康史教授、清水淳子講師)では、今年4月より、インターネットサービスプロバイダーのビッグローブ株式会社と連携し、「もうひとつの通信」をテーマに、これまでになかった新たな通信方法の発明に取り組む産学共同研究を行いました。
通信技術の発達により、現代社会に生きる私たちは、世界中のどこにいても電話やインターネットでつながることができる便利さを当たり前のように享受しています。その基盤となる通信インフラは、さまざまな技術やたくさんの人々によって発展、維持されてきました。
履修した学生ら31名は、そうした通信技術の発達の歴史や現在~近未来の技術を永原先生のレクチャーや同社データセンターのオンライン見学などでインプットし、その知識をもとに構想を練り、約4カ月をかけて作品を制作しました。
7月のオープンキャンパスに合わせて開催された成果発表展では全28作品を展示し、教員と同社社員による公開講評会を行いました。同社での学外講評会も行われる予定でしたが、新型コロナウイルスの急速な感染拡大を受けて中止に。8月27日にオンラインで、有志の学生と同社のエンジニアやサービスデザイン部門の方々との意見交換会が実施されました。
7月17日 情報デザイン棟1階ギャラリーで行われた公開講評会の様子
オープンキャンパスに訪れた高校生も参加し、耳を傾けていました。
情報を「送る」「受け取る」という原点から捉え直す
4月、学生たちは「もうひとつの通信」を考えて形にするにあたり、インプットとリサーチを繰り返しました。通信とは何か、技術とは何か、何のために用いるのか。通信の過去・現在・未来について調べ、「情報を送る」「情報を受け取る」というコミュニケーションの原点から捉え直しました。6月からは実際に作品やプロトタイプの制作に入り、中間発表、ブラッシュアップ期間を経て7月の展示発表に至りました。
ビッグローブからは毎回社員の方が授業に来訪されたほか、オンラインで同社内に中継され、学生たちのアイデアやプレゼンテーションに対するフィードバックを寄せていただきました。ビジネスの最前線からの知見を得て、違う角度から作品制作を考えることができ、学生たちのより深い学びにつながりました。
通信技術の発達からこぼれ落ちたものに目を向ける発想
8月27日のオンライン意見交換会には有志の学生4名が参加し、それぞれが制作した作品について、社員の方々との1時間半にわたるディスカッションが行われました。
今回のプロジェクトの総評として、同社新サービス創出活動推進担当の吉川雅之さんは「通信技術は発達しているが、実は、伝えられているものの量は減っているんじゃないかという学生たちの視点は新しい気付きだった」と話し、他の社員からも「今の通信技術からこぼれ落ちているものにもっと目を向けようという学生たちの意識を感じた」といった声が複数上がりました。
これを受け永原先生は「未来型の通信というテーマにするとスピーディな通信のアイデアが出る。それだけじゃなく、テクノロジーと人間がどうやって共存していくかという視点で考えられたアイデアも見たかったので、『もうひとつの』という問いにした」、清水先生は「世の中のテクノロジーに対する考え方も変わってきていて、人間にとって『ちょうどいいってなんだろう』を考えようというムーブが起きている。今の学生たちは子どもの頃からデジタル環境で不自由を感じることなく過ごしてきた世代だが、だからこそ、そのムーブに共感している人が多いのでは」と話しました。
その他、同社社員の方から「美大がどういう風に学生を鍛えているのか、これまでなかなか知る機会がなかった。今回参加してみて、最初の構想発表から最後の作品までの変貌が、全く変わったものとしてアウトプットされてきたことに感心した。素晴らしいものを見せてもらった」との言葉がありました。参加した学生たちも「自分の中での理系の企業に対する偏見のようなものが払拭されて、世界の見方が変わった」「自分たちのほうに歩み寄ってくれるような考え方や姿勢でアドバイスをもらえた」「学外の方の声をもらえる機会が大事だと感じた。不安が解消された」「新しい発見があったと言ってもらえてうれしかった。参加できてよかった」と感謝の気持ちを伝えました。
酒井優実さんの作品「Language of Nature/自然言語」
日照時間を波形で表したものに、匂い、気温、音、雨という外的環境の変化にそれぞれ形を与えたもの、20℃=直径20mmという比率でその日の平均気温を円で表したものを重ね、24時間で1文字というルールで制作。植物とのコミュニケーションを想像し、通信に文字は不可欠との考えから新たな言語を開発した。
大浦彩さんの作品「記憶の海/死者との通信」
鑑賞者が波に漂う死者のかつての言葉に出会い、その言葉が海の先へ無事帰れるよう願い呼びかけることで死者と心を通わせることを試みたインスタレーション作品。水の入ったケースの中で72もの言葉が波のように漂う映像がプロジェクターで映し出される。映像はProcessing(デジタルアートやビジュアルデザインなどのためのプログラミング環境)で制作。
JUNG Jieyunさんの作品「あなたの言語はどんな模様をしていますか?」
多言語話者に生まれる「言葉によるイメージや考え方の変化」を可視化した作品。韓国語、日本語、英語を話す作者が経験した「言語によって内面が引き出される」という感覚をビジュアルで体験できる。3つの画面は左から韓国語、日本語、英語のイメージを映し出す装置で、真ん中にあるマイクを通して人の声に反応する。同じ意味の言葉をそれぞれの言語で話すと、それぞれのイメージの違いを体感できる。
井川脩人さんの作品「イシ疎通/感情に触れる、思う」
1)鑑賞者が映像を見て感じた気持ちに近い石を、さまざまな形や感触をしたたくさんの石の中から1つ拾い、両端が開いたアクリルボックスに入れる。2)その上から今度は自分の気持ちに近い石のテクスチャが印刷された布を選んでかぶせて、自分の感情を完成させる。3)相手はそのボックスのなかに手を入れて石をさわりながら、その人の感情を感じるという、感情をかたちにする装置およびワークショップを考案。
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