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日本画の学生が全長20mの絵巻を完成!700年の歴史ある江島神社・円覚寺との文化継承プロジェクト


学生たちが約7ヶ月かけて完成させた全長20mの「令和洪鐘祭絵巻」。

2025年5月27日、700年以上の歴史を持つ藤沢・江島神社と鎌倉・円覚寺の合同祭礼「洪鐘弁天大祭(通称:洪鐘祭/おおがねさい)」を新たな絵巻として描き上げた「江島神社令和洪鐘祭絵巻」の完成発表会が、江の島サムエル・コッキング苑内・UMIYAMAギャラリーにて開催されました。このプロジェクトは、絵画学科日本画専攻の学生たちが伝統文化を現代の感性で表現し、未来へと継承する画期的な試みです。

絵巻制作の背景:60年に一度の大祭を後世へ

「洪鐘祭」は、およそ60年に一度斎行される大祭礼です。江島神社は、明治期に行われた祭礼の様子が絵巻に残されていたことから、「若い世代の感性で、貴重な祭礼の記憶を未来へと繋いでほしい」と多摩美術大学に依頼。これに応え、絵画学科 日本画専攻の学生有志22名がプロジェクトに参加しました。

学生たちは、2023年10月29日に斎行された洪鐘祭当日のリサーチからスタート。八王子キャンパスの日本画アトリエ一室を絵巻制作工房とし、7~8ヶ月間をかけて筆をとり、約20メートルにも及ぶ長尺の絵巻作品を完成させました。この絵巻は、文化財修理を専門とする国の選定保存技術保存団体「国宝修理装潢師連盟」に加盟する株式会社半田九清堂の主任技師の下田純平氏、山本一来氏を中心に表装されました。お二人は本学日本画専攻の卒業生でもあります。

本プロジェクトの目的は、令和の祭礼を絵巻に仕立て、60年後、120年後、さらにその先の後世へと、記録・記憶として残すこと。急速に変化する現代において、伝統文化を未来へと繋ぐ意義を示すとともに、地域文化の新たな創造の可能性を示唆するものです。

完成発表会:学生たちの想いが込められた20メートルの絵巻

江の島サムエル・コッキング苑内・UMIYAMAギャラリーで開催された「令和洪鐘祭絵巻」完成発表会。

「令和洪鐘祭絵巻」の完成発表会は、江の島アートフェスティバル開催中のUMIYAMAギャラリーで実施されました。発表会には、江島神社宮司の相原圀彦氏、多摩美術大学絵画学科 日本画専攻の武田州左教授、陳芃宇講師、制作に携わった日本画専攻の学生たち(安齋詩寧さん、石川愛苗さん、伊藤恵理菜さん、小野朗路さん、丸橋小夏さん、水江杏実さん)、株式会社半田九清堂の半田昌規代表取締役と下田純平主任技師、藤沢市文化財保護委員会の鈴木良明委員長らが登壇しました。

完成発表会では、江島神社宮司の相原圀彦氏が、室町時代から続く洪鐘祭の縁起や、令和洪鐘祭の様子について説明。「60年後、120年後に若い人たちの力によって後世に伝えていってほしい」と期待を述べました。

日本画専攻の武田州左教授は、デジタルで情報を残せる現代において、あえて「絵巻」という伝統的なツールを用いて洪鐘祭を後世に残す意義について言及。「現代は効率性やデジタル機器が発達した時代だが、この絵巻が時間をかけて人の手によって制作されたことは意義深い。デジタルでは映らない学生たちの気持ち、心が絵巻に込められ、後世に受け継がれていく」と、学生たちの努力と絵巻に込められた想いを話しました。

半田九清堂の半田昌規代表取締役は、今回の絵巻の仕立てに、国宝や重要文化財に使用されているものと同じ素材を選定したことを説明。下田純平主任技師は、学生たちが普段の制作とは異なる巻物の形式で描く難しさにも触れつつ、「若い方が、巻子(かんす)、掛け軸など日本に古来から伝わる絵画の制作形式に興味を持ちながら制作してもらえる機会となれば嬉しい」と語りました。

学生たちの声:制作への想いと絵巻に込めた願い

学生たちからは、プロジェクト参加への熱意が語られました。「日本画専攻で学びながら、民俗学や伝統文化に関心があり、学んでいる日本画の技法を生かして後世に残る制作に参加したいと思った」「藤沢に住んでおり、地元を描いてきた中で、今回のプロジェクトを知りぜひ参加したいと思った」といった言葉からは、文化継承への強い意識と地域への愛着が伺えました。 また、「後世に残り、これからの世代の方々にも伝統文化を継承していくことができれば幸いです」と、未来への文化継承の意義と願いが込められました。この絵巻が「時代を超えて人々を繋ぐ架け橋となり、地域の伝統や記憶が静かに受け継がれる一助となれば」という、学生たちの想いも込められています。

制作プロセスと絵巻の見どころ

学生たちからは、絵巻の制作プロセスについても発表されました。「洪鐘祭当日のリサーチでは、行列の見学を3つのグループに分けて詳細に観察した。制作にあたっては、祭礼当日の写真やスケッチだけでなく、円覚寺に保管されている120年前の洪鐘祭を描いた板絵もリサーチした」と、徹底した事前準備があったことが明かされました。 また、「制作の際には、墨の種類を使い分けるなどの工夫や、巻物に仕立てることを考慮し、絵具の水分量にも細心の注意を払った」と、絵巻という形式ならではの技術的なこだわりが語られました。 絵巻で特に注目してほしい点として、行列の様子を細かく「記録」した部分と、円覚寺に神輿が入るクライマックスの「躍動感」を表現した部分が挙げられました。

発表会の後には、20メートルに及ぶ絵巻が展開され、学生たちによる解説が行われました。細部にまでこだわり抜かれた技法や表現についての説明に、来場者は耳を傾けていました。

全体のバランスを見ながら、制作進行の打ち合わせを重ねます。20メートルの長尺絵巻を完成させるための重要な工程です。
下図をもとに、本紙へと丁寧に筆を進めていく学生たち。日本画の制作では珍しい、共同制作風景。

未来へ繋ぐ「生きた文化財」として

この「令和洪鐘祭絵巻」は、伝統と現代、そして未来を繋ぐ多摩美術大学の学生たちの新たな挑戦の証です。藤沢市文化財保護委員会の鈴木良明委員長は、この絵巻が「やがて記憶遺産になるのではないか」と述べ、文化財としての重要性を強調しました。

完成した絵巻は江島神社に保管されますが、保管するだけでなく、今回のプロジェクトに携わった方々はもちろん、地域の方々、地元の子どもたち、そして祭りに参列した多くの人々に触れてもらう機会を創出していく予定です。

この絵巻が今後広く公開され、語り継がれていくことで、洪鐘祭の歴史と文化は「生きた文化財」として次世代へと継承されます。本学は今後も地域社会と連携しながら、伝統文化の新たな価値創造に貢献していきます。

※記憶遺産(ユネスコの「世界の記憶」)は、世界の重要な記録物を保護し、保存、アクセスを促進することを目的とした事業。世界的に重要な記録物への認識を高め、人類共通の文化遺産を後世に伝える役割を担っている。


絵巻ギャラリー

学生たちが丹精込めて描き上げた「令和洪鐘祭絵巻」。その全長20メートルに及ぶ壮大な作品の中から、祭りの熱気と人々の息づかいが伝わる場面を抜粋してご紹介します。

祭礼の主役ともいえる円覚寺の洪鐘(おおがね)。
装束の色彩や絵柄、お囃子の和楽器など、祭りの道具の一つ一つや人々の表情も忠実に記録されています。
円覚寺へ、神輿が入っていく迫力満点のクライマックスシーン。スケッチブックを抱えリサーチする学生も絵巻に収められています。神輿の担ぎ手の中には内藤廣学長の姿も。(画像中央)
日本画専攻の教員・学生、そして半田九清堂の皆さんが一堂に会した記念の一枚。