ひびのらくがき

多々良 美鈴

作者によるコメント

友達や家族とつなぎあった柔らかい手、生活のにおいがするあったかい風、なにかに見える面白い雲、帰り道に目があった犬や猫。子供のころ、難しいことなんて分からなくて、何もかもに心がときめいていた。この世界は色と形であふれていて、それぞれの美しさがある。本作では、子供のころに見えていた景色を、テキスタイルパターンとして描き出した。らくがきをするように楽しく流れていく、ワクワクしたひびのリズムを感じて欲しい。

担当教員によるコメント

子どもにカメラを渡してみると、足元の蟻の巣や、怪獣のような紙屑など、大人が素通りしてしまうものを捉えていることに、はっとする。こうした感性はいつの間に衰えてしまうのだろうと考えるが、多々良は大人になるその手前で「らくがき」として記録した。
その鮮度の高い絵心はシルクスクリーンの重なりによって新たな層を与えられ、高さ10mに及ぶ圧巻の絵画となって立ち現れた。特有のゆらゆらとしたタッチが、版によるリピートで増幅し、やがて夢の中のように広がっていくが、不思議とそこにノスタルジーは感じられない。掴みどころのない像でありながら、念入りに調色された色彩が強い輪郭を放つ。あのワクワクは決して減衰していく過去のものではなく、まさに今見つけることができるのだと、この作品は示している。

講師・佐藤 未季