私帽子

中村 光

作者によるコメント

私は19歳の時白血病を患い入院しました。 抗癌剤の影響で髪の毛が抜け、治療期間も合わせて約2年間、帽子を被り毎日を過ごしました。 この帽子は今の私とあの頃の私へ送るプレゼントです。 辛く、苦しかったあの頃の記憶を切り離さず、あらためて自分自身のものにしたい。 帽子という自分にとって人一倍思い入れのある物を使う「私自身の表現」があの頃の自分と現在 の自分をきっと強く結びつけます。

担当教員によるコメント

作者のコメントにあるように、闘病中だった自分に贈るためにつくった「帽子」の作品である。帽子は全部で五つあり、それぞれのテーマを手短かに紹介する。──花:病室に飾ることができなかった花々。血液:多くの人からの輸血によって助けられた自分の命。手紙:社会への唯一の窓になってくれた友人との文通。音楽:閉ざされた病室で得た勇気と楽しみ。家族:なにより支えになってくれた家族へ。──作者は、この作品で初めて編み物にトライした。それはひと目ひと目、思いを編み込んでいく作業だったという。編み終えた最後に、すべての帽子にメッセージカードを添えた。そのことでこの作品は生きることへの喜びと感謝という普遍性を持ち、過去の自分にだけではなく、私たち、今を生きる人間みんなへの贈り物となった。

教授・永原 康史