CO-CORE


「クリティカル・ノート」について
(第1回CO-CORE研究会での発表)

これよりクリティカルノートの説明をはじめさせていただきます。


まず最初に、概略をご理解いただくために、私たちのCO-COREの具体的な活動計画について述べさせていただきます。


CO-COREは2008年度、2009年度を通じ、先ほどすばらしい発表をされました先生方のいらっしゃる海外協定校へおじゃまし、先方の学生、こちらの学生とともに、超領域を強く意識した「Art & Design 国際講評会」を開催いたします。毎年度、秋から冬にかけてのプログラムとなると思います。


ここで講評会というものに関連し、少し内情をお話ししますと、「講評会」というものは、私たちの美術・デザイン教育の柱として、本学創設以来、脈々と続けられてきました重要な遺伝子です。学生たちはイベントではなく、真剣勝負としてここに望んでいます。授業プログラムの中にも、形は様々ですが、ここを最大の終着点とし、教員もすべからく大変重要視しています。


CO-COREでは、従来の講評会をそのまま国際的な舞台に代替させていくことに慎重でありました。その結論として、私たちが至りましたのは、従来の講評会については、これはそのまま今の形で残し、その上に、「Art & Design 国際講評会」をアドオンするという形の整え方です。


授業としては、それを支援するというかたちで、授業計画などの内容を整備・変更してきました。


その上で、このクリティカルノートが効果を発揮することとなります。


昨日のパネルディスカッションでは大変刺激的な意見が交わされました。そのひとつは、超領域、領域横断型の横軸教育に対するひとつの期待と、またそれを実質的に運営していく際の難しさであります。また、最終アウトプットの形態が、例えば建築物などある形状以上のものになったとき、またある機能を必要としたときには、 デザインと工学という二大領域が、どうしても結び合わなければならないとするご意見もあり、目を覚ます思いでした。


ある学問領域では100年前から他領域に橋を架けることについて鮮明な意識を持って取り組まれてきたものの、現代に至っては反省もある、ということでした。


トニ・カウピラさんは、批評そのものがクリエイティブの一部なのだと分析されました。


こうした様々な意見、様々な取り組みが現在日本中で進行している、あるいは世界で意識されている、ということはCO-COREにとりましてこれほど心強いことはありません。


と、同時に、クリティカルノートに、実質的に横軸の意味をきちんと持たせなければならない、と強く感じているところです。


クリティカルノートは、学生一人一人が持ち、毎日使え、そして活動が積み上げる形で記録されていき、教員や、他研究領域の学生、または海を渡って海外の学生とともにコミュニケーションを図るために考案されたデジタルツールです。


昨日、金沢工業大学の中沢実先生は、「ポートフォリオ教育の実質化」という大変魅力的な「大学院教育改革支援プログラム」をご紹介くださいました。美術と、工業という一見隔たりがある領域でありながら、まるで双子の兄弟のようなツール開発の発想に、私たちメンバーは大変うれしく、また大学人としてして暖かい感情すら持つと、正直に申し上げます。もちろん中沢先生のご計画は、私たちの何歩も先をいくもので、いろいろお教え願いたいとお願いしましたところ、昨日、お互いに協力し合いましょうというご提案いただきました。
さて、クリティカルノートの現状ですが、まず現状では二つの問題を乗り越えようとしています。


ひとつは、デザイン領域の中では、「研究III」という授業の中に、教育ツールとして定着させることを目指しています。それに少しアレンジすることで、ファインアート領域にも展開します。これについては、授業の目指すものが領域ごとに大きく異なるため、「何が必要なのか」という観点に立ち、具体的な要望を取りまとめるまでに、今しばらく時間がかかります。


もうひとつは実質的な開発をいかに行うかという点です。詳しくは専門家の領分となりますが、高度なプログラムが必要です。学内にはそれを走らせるサーバがないと聞き困っておりましたが、先日のことですが、本学メディアセンター、研究支援部から「www2という実験サーバがあり、それを使っていい」というありがたいアドバイスをいただき、一気に実現化のベースが出来上がりました。


昨日のディスカッションで、東北芸術工科大学の松本先生が、「デザインにとっては、工学が必要条件」と発言されました。そのままの状況が、CO-COREの近辺にもあったことになります。CO-COREでは、クリティカルノートの最終完成を、授業内容計画表であるシラバスと慎重に連動させます。時間はかかるかもしれません。5月上旬にパイロット版が完成し、展開できるところから授業の中に取り入れてもらいます。


コンピュータに親しんでいる領域では、クリティカルノートのさらに下地部分を支える「日常のダイアリー」のような仕組みを作るところもあります。将来、クリティカルノートに連動するということもあるかもしれません。


また本学には、コンピュータをまったく必要としない、従ってコンピュータ・リテラシー育成を目標としない研究領域も多く存在します。


こうした多様な状況に対応するため、クリティカルノートはまず、「誰にでも簡単に、すぐに使えて、すぐに親しめる」ものを目指します。


その上で、急ぐことなく、多くの授業、ひいてはできるだけ多くの学生の参加を待ちます。


海外協定校にも、国内関連校にも、その輪を広げていきます。
広げると同時に、パスワードやユーザーレベルの設定などを工夫し、学生の著作権を保護するとともに、データベースとしての使いやすさ、リレーションやコミュニケーションを生み出す機能、このあたりにも配慮します。


これも昨日、ご指摘のあった点ですが、このシステムは、教員間のリレーションにも大いに役立ってくれるでしょう。学生間だけでなく、教員間のリレーションを促進させるツールでもある、という役割をいっそう重視していこうと思います。


この研究会では、横軸とともに、批評教育、批評活動というものが大きなキーワードとなりました。クリティカルノートは、授業で展開するわけですから、教員、学生間のクリティシズムを誘発し、また異領域間のそれらも活性化していく過程で、更なる創意へと結びつける機能も必要です。


昨夜のことですが、八王子のあるホテルで、参加者、スタッフが集合し、懇親会を持ちました。その際、驚くべきことがありました。
本学の日本画・武田先生が20年前、修了したばかりのとき作られた150号の作品が、まさにその懇親会会場のすぐ外に飾られていたのです。武田先生も昨夜、その場ではじめてそのことを知ったのです。どのような変遷があって、その作品がそこに飾られることになったのか、不思議な運命の巡り合わせというものを思わざるを得ません。


アートの世界ではこのようなことが起こるのです。デザインの世界でもこのようなことが起こります。また、他の学問領域にも、書物や論文を通じて起こりうることです。


そうした視点から見ますと、作品のみならず、そのプロセスをも集積していくクリティカルノートがもっと面白く、重要な役割を担っていくものだというふうに見えてきます。



少し具体的にお見せします。


これは2月10日横浜バージョンと呼ばれているもので、今ご説明している完成形とは姿、イメージが異なります。文科省主催GP合同フォーラムのポスターセッション用に作ったものです。


これは、いわばホームページとして閉じた状態で構成されていまして、学生が変更できるような仕組みにはなっていません。フラッシュの技術が随所に入っています。作品データベース、個人のホームページを集積させたものというイメージの印象が強いと思います。


一人の学生のページに入りますと、経歴や、受賞歴などが文字情報としてあり、ヴィジュアルとして作品がいくつか並んでいます。そのひとつの作品ヴィジュアルをクリックしますと、その作品が最終的に完成するまでに試行錯誤状態にあったいくつかの作品、その大元にあったアイデアスケッチ、メモのようなものが収められています。


作品も興味深いのですが、学生間でこのクリティカルノートを活用しながらコミュニケーションしている状況を想像しますと、このアイデアスケッチなどが、学生にとってはもっとも興味をひくところになるかもしれません。


あるいは、その素朴なスケッチは、ある国の学生には、伝統的な文様に見えるかもしれませんし、ある国の学生には、見たことのないものとして目に映るかもしれません。また、そのスケッチからどのような経緯をたどって作品が完成したのか、もちろん作者による文字情報も入っていますので、こうしたことを活用しながら、学生間で、国の壁を飛び越えて、十分な情報のやり取りができると思います。


こういうコミュニケーションを通じて、どのようなリレーションが育まれるのか、大変楽しみです。


今お見せしているのは、クリティカルノートのほんの一部です。しかし、80余名の学生の作品がここには集まっていますし、その数だけでもなかなかの迫力があると思います。ここに海外の学生が加わってくれたら、また数年かけて彼らの活動が積み上げられていったら、と想像すると、わくわくしてきます。


私たちはこれから本格的な設計に入ります。授業を発展させるツールとして、「Art & Design 国際講評会」を一回性のものとして終わらすことなく、継続性を持たせるものとして、慎重に着実に作り、また柔軟に変更しながらいいものにしていこうと思います。


今後、この研究会で育んだ交流も大いに活かしていきたいと思います。今後とも、ご指導、ご協力をお願いいたします。


2007年度活動報告書に、いっそう詳細な説明があります。あわせてご覧ください。



2007年度活動報告書より


異文化相互批評が可能にする高度人材育成
Art & Design 国際講評会
クリティカルノート
クリティカルノート(研究会)