トップ工芸を取り巻く状況と、多摩美陶プログラムでのカリキュラムの構成(目次)> 1. 陶プログラムの現在[1-4]
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1. 陶プログラムの現在
 1-4. 揉む、ほぐす
■ 尹

 今までのところが全体的な前提として私が考えているところで、このねらいを一言でまとめてみたらこうなりました。「発想力をてこに、ものづくりで生きていく為の力をつけてもらいたい」ということです。

 ものづくりというのは、表現としてのものづくりということですが、もう少し俗ないい方をあえてしますと、アート的、デザイン的な意味でのものづくりということです。で、これでは固いのでもう少しカジュアルに崩したのが、「手で何かものをつくることが好きな人が、その力を生かして生きていくために、発想力や総合的能力を陶を教材としてトレーニングする場所が多摩美の陶プログラムだ」ということです。さらにカジュアルに俗ないい方をすると、「要するにここで勉強するとつぶしが利きますよ」ということになっていきます。

 続いてBの各学年でのカリキュラムの内容を紹介していきます。これが4年間のカリキュラムの表です。同じものが工芸学科の陶プログラムのホームページにのっています。

 まず、いま皆さんに見て頂きたいのは、1学年から4学年へと学年が進むにつれて課題の数が減っていくということです。1年生では前期と後期にそれぞれ9つの課題で、一年間で合計18の課題をこなします。1課題に一週間かけて、毎週行われる講評会には焼成前の作品を提出して、その後まとめて窯に入れて焼きます。
 それが2年生になると、前期3つ、後期3つで、年間計6課題。ひとつの課題に4週から5週費やします。
 そして3年生になると前期で2つ、後期で3つの計5課題。
 最後に4年生になると、前期1つ、後期卒業制作で1つ、計2課題です。
 内容は自由制作で、それぞれ12週かけて仕上げていくという、長丁場です。この長丁場で必要になってくるのは、自分でテーマを見つけて、作業を組み立てていく力です。

 1年生の時は、毎週違うテーマを与えられて制作して、提出しなければならないので、学生はひとつの課題にじっくり取り組む時間がもっと欲しいといいます。

写真1 
写真2 

 ところが2年生になってひとつの課題に3週か4週の時間が与えられても、初めのうちはその時間をどう使えばいいかわからずに、非常に戸惑うようです。その時期を一所懸命頑張って、2年生の終わりまで力を出し続けていると、3年生になって時間の使い方や作業の組み立ての勘が働くようになります。
 この2、3年生の時期はスポーツでいうと、足腰を強くして基本的な体の動かし方を身に着けるような感じです。2年生、3年生のあいだに、制作にかける時間を増やしながらその間集中力を出していくことは、4年生になって12週かけて作品を仕上げていくときに、確実に学生の力になってあらわれてきます。この4年間のカリキュラムの構造が見事に反映されています。

写真3 
写真4 
写真5 

課題「陶を使って陶をつくる」提出作品

課題「視覚以外」提出作品

 

 

 それでは「B.各学年の課題の内容」をそれぞれ大づかみに説明いたします。

 まず1年次の内容です。1年次は、陶という素材が食器をつくったり、壷をつくって眺めるだけの素材ではなくて、自分たちの考えや感覚や感情を表したり、社会問題や風景と関わったりと、陶素材がもっている造形的な特質は、表現の言葉に成り得るという広がりを、ざっと総論的に経験していきます。それは自分が今いる場所からいろいろな方向に放射状にいくつもの横穴を掘っていく感じです。 毎週の課題提出のためには、学生が発想や思いつきの幅を自分で広げていかなければならないので、慣れるまで大変だといいます。中村先生は課題を通して学生を「揉む、ほぐす」という言葉で表現しますが、私の解釈では、この時期の課題への取り組みは、これから4年間のクリエイトなものづくりを楽しんだり、あるいは耐えられる、基礎体力というか体質をつくっていくトレーニングの時期と考えられます。

 2年次は、やきものという視座で、陶ならではの性質を見つけて、陶そのものについて考え込んでいくような課題が続きます。そのなかで、陶にたいする自分なりの考え方を深めていきます。だから1年次の横穴に対して、2年生は縦にストンと自分の流儀で穴を掘っていって、陶とは何かという自分独自の考えを組み立てていきます。
 これは陶という素材に対したときの自分なり基本姿勢・基本動作をつくっていく過程です。具体的にいいますと、2年性の前期は陶素材の特質や技法を糸口にした課題をこなします。陶そのものの物質性をつかまえるということです。そして後期は思考系の課題と名づけてみましたが、陶についての文化的、社会的な意味や受け取り方をてがかりに表現を組み立てていきます。

 3年次は、外部・実社会との関わり、空間の問題や器の問題や異素材との組み合わせ、或いは生活の現実をテーマに陶でそれを表現していく。3年生を担当している樋口さんに説明をしてもらいます。

  ■ 樋 口

 僕は3年生を後期から受け持たせてもらっています。僕が今やれることは、極論をいうと、卒業と同時に世の中に出て、陶を素材というかパスポートにして、いかに生きていくかといいうことです。かなり難しいことだとは思いますが、その実現を第一目標にしています。

 カリキュラムの内容としては、何かを制作して食べていく(生活していく)ということに繋がるいちばん近いこととして、パブリックアートにいちばん重きを置いています。大切なことは、世の中に対して、またはクライアント(仕事の依頼者)さんだったり何であるかは時々のことで分かりませんけれども、いかに自分をうまくプレゼンテーション(発表・提示)していくか。その方法を、もっとも実利的、実務的にそして現実的に3年生の後期で身につけてもらえればと思っています。

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