背景にあるもの

湯川ちひろ

作者によるコメント

おいしい料理を知らなければ、おいしい料理を作ることはできないし、失敗した記憶がなければ、また同じ失敗を繰り返してしまうだろう。私たちが今まで積み重ねてきた記憶や時間は、今の自分を作り上げていて、見えるものすべてのものには、そうなるまでの背景がある。その確かではない見えないものを形にした。

担当教員によるコメント

「自分はいかにして現在の自分になったのか?」 この作品はこんなシンプルな根源的・哲学的な問いからスタートしたようだ。自分が自己を作って来たというよりは社会の中で関わって来た人々や、殊に家族の影響を受けて作られたのではないかと思ったと言う。彼女はこの考えを作品に表した。自己満足ではなく「他の人がメッセージを共有できる表現方法を獲得できるか」。ここがインスタレーションの難しさでもある。表現に適したアイディア・写真選択・レイアウト・素材探し等、重層的に行きつ戻りつしながら試行錯誤を重ねている。結果はご覧の通り。写真は過去の時間の記憶である。それがこの作品ではものの見事に空間と時間が共に立ち上がって眼前に現われている。家族への想いが不思議な感覚で伝わって来る。

教授・富樫 克彦