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■校友会記念講演会

「広告と創造性」〜創造性重視の社会〜

株式会社博報堂代表取締役社
長東海林隆(S32グラフィック)

 創造性重視はどの企業でも目指しています。創造とは過去にとらわれない新しいものへの挑戦です。高度成長期は粒ぞろいが有利でした。今は粒違いが重視されています。創造性重視は,個性尊重なくしてあり得ません。NECの金子社長も先日こんなことを言っていました。「日本の集団主義は,QC(品質管理)サークル活動で,非常に大きなイノベーションをもたらした。情報化社会では,ソフトが大切です。ソフトを作ること自体が独創の世界で,独創は集団から生まれることはありません。個人主義のカルチャーは情報化にプラスです」と。個性尊重が謳われています。
 今,あらゆるカテゴリーにおいて,NO.1の商品やサービスだけが,有利に展開しています。NO.2はまだいいとして,NO.3以下はもう生きていけない危険を持っています。ただ,高度成長期と違って,ソフト化会社では量のNO.1だけがNO.1ではありません。個性を持った他に負けないものを持ったものが,NO.1です。NO.1はいくつもあると考えるべきです。クリエイティブの世界は,元々個性尊重です。粒ぞろいは何の役に立ちません。粒違いが前提です。成長期の日本では,創造性重視の社会ではなかった。商品もサービスも欧米の後追いであった。創造型ではなく改良型だった。後発として先進国に追いつこうとすれば,それが最善だったとも言えます。しかし今,日本は世界のトップランナーになってしましました。それに高度情報社会であり,創造性重視へ急展開せざるを得なくなりました。
 日本の偏差値重視の教育は,粒ぞろいの優秀な人間を作り上げるのに,有利だったかもしれません。偏差値は,いわば左脳の教育です。左脳は言語を中心とした系統的論理思考をつかさどります。評価しやすい分野です。それに対して,右脳は感覚で考え,複雑な視覚パターンの認識や処理に優れています。今日お見えになっている方々は右脳派ばかりと存じますが,今の教育では右脳派は重要視されなかった。創造性重視の社会では左脳派と同じくらいに右脳派が重要だと思っています。これからの美術大学出身の人々が,社会の中枢で活躍しやすい社会になっていくことと信じています。
 ちょっと横道にそれますが,世界的な短距離ランナーのカール・ルイスは,いくつも世界記録を作りました。素晴らしいランナーであることを誰も否定しません。カール・ルイスは人並みはずれた能力があることも確かです。
 しかし,今日世界一になるには,個人の力だけでは不可能だと思います。カール・ルイスには走るためのコーチ,体力をつけるコーチ,心理的なコントロールをする先生,食事を考える人など沢山の専門的な人々の力の結晶が世界記録を作ったのです。ソウルオリンピックの時に履いたシューズは日本のミズノが作りました。それも,0.1秒でも,0.01秒でも速く走れるシューズのために多くの人々の労力と能力を費やしたことでしょう。
 世界での勝負は常に高いレベルの戦いになっています。これはスポーツだけでなくすべてに言えることです。先ほど情報化社会は個人が大切と言いました。しかし,個人だけでは勝負に勝てない程,すべての事柄が高度化しています。ネットワークがいるのです。
 一つの社会の中だけではありません。目的に合わせて,社内外,国の内外を問わず最高のネットワークを組むことが必要になっています。これは,企業レベルも同じです。それぞれ専門を持った企業が連携することが非常に多くなっています。資本によるネットワークではなく,知識や知恵のネットワークです。結果を最高にするためのネットワーク。それがこれからの勝負を決めそうです。集団による創造性。あるいは創造力をより高めるためには,集団パワーが必要です。21世紀にはこのネットワークパワーの競争になることは間違いありません。幸いコンピューターと通信の発達はネットワークを組みやすくしています。ただネットワークを組むためには,自らが何らかの優れた能力や情報発信力をもっていないとネットワークを組んでくれません。自らの得意な能力を最大にしていく,これがネットワーク社会では欠かせない必須要件です。
(平成9年6月1日・講演会より抜粋させていただきました)